ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第82回

ハクマン第82回
どの漫画家にも、
漫画家を志すきっかけになった
作品や作家が存在するものである。

私がさくら先生の絵を真似たかというともちろん真似た気はするが、それより真似たのは、作中のちびまる子ちゃんの行動、そしてエッセイでさくら先生がやっていたことを真似ようとしていた。

そんなわけで私は小学生の頃、尿を飲もうとしていた。

ちびまる子ちゃんに尿を飲む回はない。たださくら先生がエッセイで飲尿療法をやっているという話を書いていたからだ。
推しが勧めているものであれば購入し、推しが尿を飲んでいれば自分も飲むのがオタクというものである。

さくら先生も作中で「これが食糞療法だったら相当ハードルが高い」的なことを書かれていたが、私もさくら先生が食糞してなくて本当によかった。

結果からいうと、飲むことはできなかった。
実は口をつけるところまでは行ったのだが、尿の味が予想外すぎて口をつけた瞬間「無理だ」と投げ出してしまった。

 
ある漫画家は、憧れの作家の漫画をスクリーントーンまで手描きで全て模写したという。
「真似る」という行為にすら既にガッツの差が出ているのだ。

あれから20年、漫画家にはなれたがさくら先生にはほど遠い。
あの時尿が飲めていたら、今頃もう少し近いところに立てていたのかも知れない。

ハクマン第82回

(つづく)
次回更新予定日 2022-5-10

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

新庄 耕『夏が破れる』
【『まん延』『温度感』『〇〇ガチャ』etc.】「ふだん使いの言葉」を見つめ直すための3冊