ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第8回
恥部を自ら他人に晒すこの職業は、露出狂と同カテゴリかもしれない。
私は地方に住んでいるため、そもそも担当と直接会う事すら稀なのだ。
ネームはもっぱらメールで送り、それを読んだ担当から感想や修正相談が送られてくる、ということがほとんどなので、私は10年近く漫画家をやっていて、目の前で自分の漫画を読まれたことがほとんどないのである。
それが先日突然起こった。
原稿とは別件で上京し、担当と打ち合わせをした時「ついでだからここで原稿の打ち合わせもしましょう」と、提出していた私の原稿を担当が持ってきたのである。
そしてこともあろうか、たまたまその場に同席していた編集者ではない外部の人に「せっかくだから読んでみますか」とその場で読ませ始めたのだ。
ほぼ初めて、自分の描いた漫画が目の前で読まれている、その時私はどうしたか。
「逃げた」
もちろん、窓を突き破って逃げたわけではなく「トイレに行ってきます」と言って部屋を出たのだが、もちろんトイレに行きたかったわけではない。
私はトイレで出来るだけ時間を稼いでから、部屋に戻った、かなり強敵のウンコを仕留めて来たと思われたに違いない。ちなみに部屋に戻ってからの記憶はあまりない。
我ながら、こんなメンタルでよく漫画家などという合法公然わいせつをやっているなと思う。
世の中には、漫画家としてデビューするにも、原稿を出版社に持参し、編集者に読ませ、その場で評価をもらう「持ち込み」という骨太すぎる方法がある。
それだけ強靭なメンタルがあれば、漫画家になれなくても絶対他に就ける職業があると思う。でもそれは「露出狂」かもしれないので、やはり漫画家になった方がよいだろう。
(つづく)