秋吉理香子『眠れる美女』
男性にもおすすめのバレエ・ミステリーです!
バレエを習ったことも観たこともなかった私がなぜバレエミステリーを書くことになったのかというと、担当者さまの「バレエを舞台としたミステリー小説はほとんどないので書いてみませんか」という一言がきっかけである。確かにバレエは華やかで煌びやか、だけど裏では複雑な人間関係や愛憎が渦巻いていそうで、ミステリーの舞台としてはぴったり。なるほどと納得した私は、無謀にも「面白そうですね! 挑戦したいです」なんて言ってしまったのだ。
まずはバレエの舞台を担当者さまと観に行った。それが東京バレエ団の「ジゼル」。上野水香さんが主演で、ため息が出るほど美しかった。この時に初めて「ジゼル」の物語を知り、死者が主役という設定に惹かれ、テーマにすることに決めた。
テーマは決まったものの、それからがまあ大変。バレエの歴史、活躍したバレエダンサー、衣装、舞台装置、レッスン、テクニックなどなど、手あたり次第勉強することになった。その試練たるや、バレエダンサーの過酷なレッスンに匹敵するかもしれない。約一年の連載の間、起きている間はずっとバレエのことばかり研究していた。
無事に単行本になると、書くきっかけとなった上野水香さんと対談させていただいたりテレビに取り上げていただいたりと、嬉しいことばかりが起こった。もうバレエのことを勉強しなくていいとホッとしつつも、執筆に苦労した分、どの登場人物にも思い入れがあるので寂しいな――と思っていたところにナント、担当者さまから続編のお話が!
また大好きな登場人物たちに会える、しかも二作目だからバレエのことも結構わかってるつもりだし、前作よりスムーズに書けるはず!と喜んだものの、やはりバレエの世界は奥が深かった! バレエの歴史は長いので、いくら調べても尽きることがない。色んな壁にぶち当たり、またもや私はバレエの魔物と格闘することになってしまったのだ。しかも二作目で選んだテーマは「眠れる森の美女」。誰もが知っているストーリーであるからこそのプレッシャー。いかにミステリーとして昇華させるか……と悩みに悩みながら書き上げた。
こうして世に出る形となった今、「ジゼル」に負けない作品になったと胸を張って言える。「ジゼル」も元の作品が持つ愛と死のテーマを小説に絡めたが、本作も「眠れる森の美女」のテーマを小説に生かしつつ、ミステリーとして楽しめるものに仕上がっている。
最後に、声を大にして言いたいこと。バレエがテーマなので女性の読者さま向けだと思われがちだが、バレエの世界は体育会系っぽくもあるし、ミステリー小説としては良い意味でオーソドックスな作品なので、ぜひぜひ男性の方も敬遠せず、お読みいただけると嬉しいです!
秋吉理香子(あきよし・りかこ)
兵庫県生まれ。大阪府在住。早稲田大学第一文学部卒。ロヨラ・メリマウント大学院にて、映画・TV製作修士号取得。2008年、「雪の花」で第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞。09年、同作を含む短編集『雪の花』でデビュー。13年、名門女子高を舞台にしたダークミステリー『暗黒女子』が話題を集める。同作は17年に映画化された。他の著書に『聖母』『絶対正義』『灼熱』『サイレンス』などがある。