長岡弘樹 ◈ 作家のおすすめどんでん返し 11
1話4ページ、2000字で世界が反転するショートストーリーのアンソロジー『超短編! 大どんでん返し』が売れています。執筆陣が、大ヒットを記念して、どんでん返しを楽しめる映画やアニメ、テレビドラマ、実話怪談など、さまざまな作品を紹介してくださいました! ぜひチェックしてみてください。
作家のおすすめどんでん返し 11
男⇄女
長岡弘樹
どんでん返しの一定型に、ある男(女)が実は女(男)だったと最後に判明するパターンがある。
こういう性別誤認のトリックを映画で上手くやっている作品と言えば、まず思い出されるのが『クライング・ゲーム』(1992)だ。それより少し後に公開された『薔薇の素顔』(1994)も(世評は芳しくないようだが)個人的には好きである。
ちょっと古いところでは『サマーキャンプ・インフエルノ』(1983)が印象深い逸品だった。さらに時代を遡って同系統の作品を挙げるなら、かのウィリアム・キャッスルが放った『第三の犯罪』(1961)を忘れるわけにはいかない。小説でたまに見かける「袋綴じ返金保証」というギミック。あれを映像でやってのけたことでも映画史に残る作品だ。
ところで、『女子高生チェーンソー』(2003)なるオリジナルビデオ作品をご存じだろうか。身も蓋もない邦題から察しがつくように女子高生が殺人鬼に襲われるといった内容で、やはり最後に性別トリックによるどんでん返しが炸裂する物語である。
とはいえ、男優(女優)がきちんと念入りなメイクによって女(男)に化けて観客の前に出てくるわけではない。トリック解明の場面は、役者Aがベリッとラバーマスクを剥がしたら次のシーンでは役者Bに代わっている、といった方法で処理されていた。だから演出としては稚拙なのだが、それよりも問題なのは、マスクの下から現れた殺人鬼の正体だ。これがあまりにも意外というか無茶苦茶なのである。
こういうデタラメまで「どんでん返し」に含めていいか正直疑問だ。しかし、良く言えばシュールであり、ゆえに印象が強く、初見以来わたしの頭にこびりついて離れない作品なので、この機会に紹介しておく次第だ。
まさに噴飯ものの真相をわたしは無邪気に楽しんだが、エンドロールが流れているあいだ「時間を無駄にした……」と感じたこともまた確か。明日仕事や学校が休みの方にだけおすすめしておこう。
長岡弘樹(ながおか・ひろき)
1969年山形県生まれ。筑波大学卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞し、デビュー。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。13年『教場』で週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位を獲得しシリーズ化。後にテレビドラマ化される。著書に『線の波紋』『教場0 刑事指導官・風間公親』『教場X 刑事指導官・風間公親』(8月27日発売)など。
『超短編! 大どんでん返し』
編/小学館文庫編集部