スピリチュアル探偵 第11回

スピリチュアル探偵 第11回
探偵からの提案。
観光のついでに、
霊能者を訪ねてみては?


県内で活動する霊能者情報をゲット

 2時間ほど周辺を散策し、様々な角度から関之尾の滝を撮影しましたが、とくに写真に不思議なものが写っているようなこともなく。ミステリースポットの取材としてはむしろ物足りなさすら感じましたが、とにかく昼過ぎには取材を完了し、翌日のフライトまで自由の身となりました。

 といっても、飲みに繰り出すにはまだ早い。どうしたものかと思案していたところ、友人からこんな提案がありました。

「宮崎にも有名な占い師がいるけど、行ってみる?」
「僕が探しているのは、占い師じゃなくて霊能者なんだけど」
「でも、心霊写真の鑑定とかもやってる人らしいよ」
「ナニ!? それは面白そう。今すぐ行こう!」

 すると友人はその場で何人かの仲間と連絡を取り合って、件の霊能者の電話番号を突き止めてくれました。すぐに電話をかけてみると、男性の声で「すぐに来れるなら、1時間くらい見られるのでどうぞ」と言うではありませんか。心霊スポットからの霊能者とは、思いがけずスピリチュアルなツアーになりました。

 指定された住所は、関之尾の滝からそう遠くない市街地でした。公営住宅らしき平屋が立ち並ぶエリアで、とても名のある霊能者が暮らしている街には見えません。

「1時間後に迎えに来る」と言い残した友人を見送ると、僕はさっそくインターフォンを押しました。中から出てきたのは、ニット帽をかぶった50代くらいの小柄な男性。挨拶もそこそこに、家の中へ。

 2間の室内はまるで生活感がなく、最低限の家具しか置かれていません。ここは彼の住居ではなく、サロン的な場所なのかもしれません。ともあれ、ちゃぶ台を挟んで向かい合わせに座し、さっそくセッションスタートです。

「今日はどちらから?」
「朝の便で東京から来ました」
「観光か何かで?」
「そんなようなものです。今日は関之尾の滝に行ってきました」
「ああ、あそこね。あそこは良くないよ」
「……と言いますと?」

 早くも内心、「おお」と色めくものを感じながら、先生の朴訥な口調に耳を傾ける僕。あの県内随一の心霊スポットは、霊能者の目には一体どう見えているのでしょうか。

テレビ番組からのオファーが絶えない心霊写真鑑定士

「すごく霊的なパワーに満たされた場所なんですよ、あの周辺は」
「それって、お雪の伝説に関係しているんでしょうか?」
「それはわからないけど、もともと古くから人が集まって活動していた場には、どうしても霊的な気が溜まりやすいから」

 これは霊能者を名乗る人がよく言う話です。殿様が宴会を開くくらいですから、滝の周辺に昔から多くの人出があったのは事実なのでしょう。

「あまり近寄っちゃいけなかったですかね。もしかして僕、何か連れてきちゃってます?」
「うーん」
「………(うーんってなんだよ)」
「あの滝の上にある×××という施設。あそこにも立ち入った?」
「いえ、遠目には見ましたが、立ち入ってはいません」
「なら大丈夫でしょ。とくに日没後は、あそこだけは絶対に近づいたらダメですよ。本当に洒落にならないから」

 確信を持った口ぶりでそう語る先生。風評被害を避けるためここでは施設名を伏せますが、普通に地域の活動などで使われていそうな場所だけに、「ホントかよ」と思わずにはいられません。ただ、断定的な口調が妙な説得力を感じさせます。

 聞けばこの先生、幼少の頃から霊的なものが見えていたそうで、今は建設業の会社を営む傍ら、こうして紹介制でカウンセリングに応じているのだそう。というわけで、例によって仕事、健康、結婚の3大テーマをぶつけてみることに。

 でも、仕事や健康に関しては、とくに目新しいアドバイスはなし。結婚についても、「3年くらいかかるかもしれないけど、あなたはちゃんと相応しい人と然るべき時期に結ばれるよ」などと、女子なら喜びそうなコメントをいただけた程度。そこで、別の話題を振ってみることに。

「ところで、先生は心霊写真の鑑定もされていると聞いたのですが」
「はいはい、今もやってますよ」
「それはどういうお仕事なんですか?」
「テレビ局から依頼があるの。もう20年くらいやってるけど、最近はそういう番組が減ってきたので、年に3回くらいかな」

 年に3度も呼ばれるなら、霊能者としてはかなり売れっ子の部類でしょう。でも、僕はその手の番組をそこそこチェックしているほうだと思うのですが、この先生の顔や名前に見覚えはありません。

 そこで「次の出演はいつですか?」とやんわりほじくってみると、スタジオに呼ばれるのではなく、制作会社から素材がまとめて送られてきて、そのひとつひとつに講評をつけて戻す形がメインなのだそう。まるでフォトコンテストの審査員のようです。

「最近はやっぱり動画が多いね。(押し入れの襖を指しながら)今もそこに送られてきたDVDがどっさり入っているんだけど、ビルの防犯カメラとかタクシーのドライブレコーダーとかに不思議なものが写り込んでるから見てくれっていうのばかりだよ」

 え、現物があるならぜひ見てみたい。そう思って「その映像、僕にも見せてもらうことはできませんか?」とか「実際に鑑定しているところを見たいのですが」などと言ってみたものの、「いや、ここにはDVDのプレイヤーがないから」と拒否する先生。どっさりDVDがあるのにプレイヤーがないとはおかしな話です。まあ、テレビ局のものですから、勝手に人に見せるわけにはいかないのは理解できますが……。

 でも、そもそも本当にそんな素材が送られてきているのかどうか、いまいち信じられません。要はこの先生の言うことはどれも、口八丁の域を出ていないのです。せめてDVDの現物だけでも確認できれば、少なくとも霊能者として認知されている証明になるのですが。

 とはいえ、もちろん勝手に押し入れを開けるわけにもいかず、ほどほどでタイムアップ。収穫といえば、関之尾の滝に関する怖いコメントが拾えたことくらいでしょうか。

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

文学的「今日は何の日?」【3/9~3/15】
◎編集者コラム◎ 『彼女の知らない空』早瀬 耕