スピリチュアル探偵 第11回
観光のついでに、
霊能者を訪ねてみては?
夜の繁華街で出会った「宮崎の母」
さて、スピリチュアル探偵・宮崎編は、実はこれで終わりではありません。その夜、市内のホテルにチェックインした後、友人が勧める居酒屋で食事をとった僕たちは、その後も2軒、3軒と地元のBARをホッピングしていました。
すると、繁華街の一角に「ガス燈」というレトロな看板が視界に飛び込んできました。スナックには今のところあまり興味がないのですが、なんとなく気になって近づいてみると、店名の下に「宮崎の母」と書かれたプレートが掛かっています。どうやら占いスナックのよう。これは一興です。
さっそく飛び込んでみると、店内は無人。……と思いきや、ソファ席にどっさりと身を預けていた老婆が、「あら、いらっしゃい」と言いながらゆっくりと起き上がりました。まるで気配を感じなかったので、ちょっとびっくり。年の頃で言えば、80歳前後くらいでしょうか。
「あの、ここは占ってもらえる店なんですか?」
「ええ、そうよ。そのあたり適当に座ってね」
そう言うと、スローな動作でカウンター席に移動して、僕らと横並びの形で座り直した老婆。
「足が悪いものでごめんなさいね。おしぼり、そこから勝手に取って」
おばあちゃん家にやって来たかのようなこの雰囲気は、むしろ大好物。僕は友人に向けて、「今夜はここに腰を落ち着けよう」と目で合図を送りました。
老婆は僕らに1枚ずつ用紙を差し出し、名前や生年月日などを書き込むように言います。その紙には、「生数運」と大きな見出しが記されていました。これは誰もが生まれながらに持っている数字のことなのだそうです。
細かな算式は失念しましたが、生年月日の数字を順に足して割り出す、よくある手法だったように思います。ちなみに僕は「8」でした。
「お兄さんは8だね。じゃあ、あらかじめ紙に書いておいたから、これを渡しておくわね」
老婆はどこからか便箋の束を持ち出し、そこから1枚抜き出すと、冒頭に「友清哲様」と宛名を書き足して僕に渡してくれました。
そこには「8」の生数を持つ男性の特徴や傾向が、3ページにわたってびっしりと手書きされています。コピーではないあたりが、なんとも言えない温かみを感じさせます。客のいない時間帯にせっせと書き溜めていたのでしょうか。
内容はと言えば、「8の男性は、いかにして無から巨大な幸せを築き上げるかがテーマ」との一文から始まり、「あなたは心の憂さを酒で紛らわす人です」とか、「人に裏切られることは多いですが、人なしでは生きていけない人です」とか、「大切な用事の前にはきちんと食事をとること。あなたは満腹の時に最幸運が訪れるタイプです」とか──、とにかくいろんな助言が綴られています。
また、恋愛面に関する記述も多く、「最愛の人とは結ばれない」などと心外なことが書いてあるかと思えば、「入籍があなたの愛を決定的にします。籍の入らない恋愛はお勧めしません」なんて、なんだか芯を食った助言も。
ちなみに僕と相性がいいのは、生数が「1」もしくは「9」の人で、「あなたの場合、たぶん次の結婚は3年後くらい」なんだそうですよ。奇しくも、言ってることが昼間に会ったニット帽の先生と一致しているのが少し気になります。
その直後に45年の幕を閉じた、愛すべき「ガス燈」
そんな占いの結果を肴に、老婆を挟んで酒を呷ること約2時間。この店は1972年にオープンしたそうで、こうして生数運占いを売りの1つとすることで、名のあるミュージシャンやスポーツ選手が数多く訪れるのだとか。
最後は「また来るから元気で長生きしてね」と告げ、店を後にした僕たち。期せずしてスピリチュアル尽くしとなった宮崎での1日でした。
驚いたのは、それから3日後くらいに、さらに詳しくいろんなアドバイスが綴られた手紙が自宅に届いたことです。
内容についてはまたの機会に譲りますが、そこには現地でいただいた便箋と同様、「8」の生数を持つ男性に向けたアドバイスがたくさん書き込まれていました。きっと、すべての客にこうしたアフターケアを行っているのでしょう。45年も地元で愛され続けてきた理由が少しわかった気がします。
ちなみに、今回の原稿を書くにあたって「ガス燈」について調べてみたところ、その日は姿が見られなかった、老婆の旦那さんらしき男性バーテンダーの姿を地域ニュースの中に発見しました。どうやら僕らが訪れた翌月に閉店してしまった模様。いつかもう一度訪れたいと思っていたのに、これは残念な情報でした。
一方、SNSなどで不意に心霊動画が流れてくるたびに、「そういえば、あのニット帽のおじさんは元気だろうか」などと思いを馳せる今日この頃。今思い返してみても、実に味わい深い日向の旅でした。
友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。