スピリチュアル探偵 第12回
そこには霊的な原因があった!?
鼻はグジュグジュ、目はグスグス。花粉症持ちにとって、春は必ずしも爽やかな季節ではありません。せっかく桜が咲き始めても、「いいから早く夏になれ」と思わずにはいられない。この気持ち、きっと賛同してくれる同志は少なくないでしょう。
ちなみに僕の場合、こうしてスギ花粉が飛び交う季節になると、思い出さずにはいられない霊能者がいます。出会いは今から数年前の春。いつものように、知人から舞い込んだタレコミに端を発しています。
正直、あまり気乗りしない筋からのタレコミでしたし、花粉症がひどくて人に会うのが億劫だしで、スルーしようか悩んだネタだったのですが、昔からよく「春は出会いの季節」と言われます。一時の怠け心で本物の霊能者との出会いを逃してしまったら……と考えると、やはり行かないわけにはいきません。
というわけで、今回はスピリチュアル探偵・春の陣とまいりましょう。
〈CASE.12〉祟りに怨念、前世の因縁……脅し文句だらけの60分
「──怖い話が好きなんでしょ? 面白い人がいるから紹介してやろうか」
本物の霊能者を追い求めていることを公言して久しく、友人知人から「よく当たる占い師がいるよ」と水を向けられるたびに、「いや、探してるのは占い師ではなく霊能者だから」と訂正し続けること十数年。しかし、霊能者でも占い師でもなく、「怖い話」を求めてるヤツと誤認されたのはこれが初めてのケースでした。
そう声をかけてくれたのは、仕事関係の飲み会で顔を合わせた年上の男性編集者。僕と同じフリーランスの立場であちこちの出版社に出入りしているため、思いがけない現場で顔を合わせることがたびたびある人でした。さりとて、特別に馬が合うわけでもなく、むしろ僕にとっては少々苦手なタイプの御仁です。
というのも、やたらと大言壮語を吐くわりに、今ひとつ信憑性が伴わない人で、いつもみすぼらしい格好をしているのに「年収が数千万円を超えたことがある」と吹聴してみたり、ブサメンなのに「前の彼女はグラビアアイドルだった」とのたまったり、とくにお酒が進むと見え透いたトークでその場をしらけさせることの多い人なのです。
先輩とはいえ、そんな気質が肌に合わず深いお付き合いを避けていたのですが、この日の酒席ではうっかり隣に座られてしまいました。どこかで僕の活動を耳にしたようで、こうしておかしな声のかけられ方をしたわけです。
「怖い話は嫌いじゃないですけど、別に怪談話を収集しているわけじゃありませんよ」
「細かいことはどうでもいいよ。占い師の百人斬りやってんでしょ?」
「まあ、似たようなことはやってますが」
「凄い人がいるんだよ。あれを体験せずして占いは語れないよ」
占いを語る気などこれっぽっちもないのですが、どうやらそれなりに腕の立つ占い師に心当たりがある様子。
あまり借りを作りたくない相手なのでちょっと尻込みしたものの、とりあえず視界に入った霊能者は片っ端からあたってみるのが僕の信条です。これはやはり、行かねばならないのでしょう。
聞けばその先生、カウンセリングルームを持っているわけではなく、新宿区内の某喫茶店を根城にしているのだそう。「ちゃんと俺の紹介だって言ってくれよな」などと恩着せがましさが鼻についたものの、とりあえず先生の連絡先をゲット。
すぐに電話をかけてアポを取り、早くも翌週の昼下がりに僕は指定の喫茶店へ向かうこととなりました。さて、今回はどのようなセッションが待っているのでしょうか。
友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。