スピリチュアル探偵 第17回
やり手経営者の伝手をたよって、
いざ鎌倉!
持って生まれた現世のミッションは〝家族〟
序盤はこうして、謎の数字をベースにした僕の運気と人柄分析に終始。基本的に、言われることはどれもよく当たっているように思います。占いなんてそんなものと言われれば反論できませんが、それでも生年月日しか知らない初対面の人間を相手にしていることを踏まえれば、実にいい線いっている印象なのです。
僕の行動パターンや過去の出来事、同じく生年月日のみを伝えた母親の性格や過去の出来事について、あたかも昔からよく知っている友人のように、先生はナチュラルに的確なことを言います。たとえば僕が会社員を辞めて独立した経緯や、母親の大病の原因についても、予備知識なく言い当てられました。
ここで、先ほどから気になっていた疑問をぶつけてみることに。
「先生はどういう手法で僕や母のことを視ているんですか?」
「数秘術を使った、持って生まれた数字から視えるものが3割。こうしてご本人を直接視て、私の頭に流れ込んでくるイメージが3割。残りは対話の中から湧いてくるインスピレーションですね」
「では、もし僕と同じ生年月日の人が来たら、まったく同じ診断になるんですか?」
「運気の流れとか、持って生まれた星については同じことを言うことになりますね。でも、ご本人から入ってくる情報はそれぞれ違いますから」
なるほど、むしろ納得。数字だけで物を言っているわりには、当たり過ぎている気がします。
あくまでポーカーフェイスを保っているので、そんな内心の肯定的な感情を察したわけではないでしょうが、先生のアドバイスは徐々に数秘術からスピリチュアル的なものへと移行していきました。
「哲さんの現世のミッションは、ずばり〝家族〟なんです。これは前世でやり残したこと、と言い換えてもいいでしょう」
先生いわく、僕は前世でこっ酷い裏切りにあっているのだそうで、それゆえに現世では人一倍寂しがり屋なのだとか。まあ、これもざっくりと当たってはいます。
「つまり、自分の家庭を持たなければならないということですか?」
「そうです。ただ、これは現世での重要なミッションだから、なかなか一筋縄ではいかないんですよね。ちなみに、ご結婚は?」
「したいと思ってますが……」
「ですよね。そこは引き続き頑張りましょう。あと、ご実家の家族との関係に、少し問題がありそうですね」
おっと。さらりと言われちゃいましたが、僕は実の父親と絶縁しているので、おそらくそれを指しているのでしょう。でも自らそれは明かさず、「心当たりはあります」と返す程度にとどめました。
「前世で裏切られた相手というのが、家族の誰かだったのかもしれませんね。だからこそ、現世では自分の家庭を持つ努力をしなければならないんですけど」
「うーん、耳が痛いです。年老いた母に、早く孫のひとつも抱かせてやらなきゃとは思っているんですけどね」
「うんうん。お母さんも口に出さないだけで、本当にそれを強く望んでいますよ」
ここで先生は、「ちょっと待っててくださいね」と、席を外して2階へ上がっていきました。そしてトランプのようなカードをいくつか携えて戻ってきます。タロットカードでしょうか。
カードが示した不思議な符合……!?
先生はその中のひとつをケースから出すと、手元で何度かきってこちらに差し出しました。そして、「お母さんを思い浮かべて3枚引いてください」と言います。
言われるまま、なるべくリアルに母親の顔を想像しながら、カードを3枚引き抜く僕。すると先生が、「ああ、やっぱり!」と声をあげました。見ると、1枚目のカードにすやすやと眠る赤ちゃんの姿が描かれているではありませんか。
「けっこうストレートに出ちゃいましたね、赤ちゃんが」
心なしか、先生はとても満足そう。確かに偶然にしては出来すぎています。でも、そもそもこれはどういうカードなんでしょうか……。
「これはフラワーエッセンスカードといって、カードリーディングに使う道具なんです。要はインスピレーションを得るきっかけに用いるものなんですけど、これほど覿面に表れるのは珍しいですよ」
そう言って先生はけらけらと笑います。喜んでもらえてなんだか僕も嬉しい。
「ちなみに哲さんは来年の2月以降、盛運期は終わっても運気としてはいい流れのまま定着し、変化のピークを迎えます。これは歓びの年でもあって、結婚には最適な1年なんですよ」
「ほう、それはいい話!」
「そして、先ほどもお伝えしたように、現世のミッションは家族ですから、これをクリアすることで今抱えている停滞感が一気に晴れて、新しいステージへ踏み出すことができると思います」
「それは仕事面でも……?」
「そうですね」
うーん、実に希望を抱かせるセッションです。最後にささやかな記念として、さっき引いた赤ちゃんのカードを写真に撮らせてもらい、カウンセリングは終了。気づけば60分をとっくに過ぎていましたが、追加料金を求められることもなく、待機していたMさんにバトンタッチです。
全体として非常に満足度の高いセッションで、ぜひまた折にふれ話をお聞きしたいと、最後に先生とLINEを交換してその場を辞しました。これは僕としては意外と珍しいパターン。
ちなみに1時間後に再合流したMさんも同じ心境だったらしく、「よく当たるし、きっとまた会いに来るだろうと思ったから、途中でメモをとるのをやめちゃった」と言っていました。
霊能者としての真贋を問うのが野暮に思えるほど、前向きな気持ちにさせてくれる楽しいセッション。「なんでそんなことまでわかるの!」といった衝撃があるわけではなく、淡々と雑談をしていたらいろいろ言い当てられてしまった、といった印象です。
次の運気の変わり目にでも、ぜひまた鎌倉を訪ねることにいたしましょう。
(つづく)
友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。