スピリチュアル探偵 第2回

スピリチュアル探偵 第2回
霊能者を求めて西へ! 一見、キャバ嬢風な彼女は本物なのか?


オレンジ色のオーラを纏うライターとは僕のことです

 ただ、酒場のノリとはいえ、プロを相手にその場で「ちょっと視てみてよ」とはなかなか言い難いものです。でも、そこはさすが霊能者。僕のそんな内心をちゃんと読み取ってくれたようで、向こうから勝手にしゃべり始めました。

「あなたははっきりとしたオレンジやね。クリエイティブな仕事に向いてる人の色」

 僕の顔──厳密には耳の後ろのほうを眺めながら、ユカリさんがそう言うと、周囲の男女が「おお」とザワザワし始めました。僕は僕で、それは白熱球の光の加減なのではないかと思わなくもなかったですが、このコメントに悪い気はせず。「へえ、それは嬉しいなー」と肯定的なリアクションをお返ししました。

 実際、ライターのような中途半端な物書きというのは、クリエイター扱いされると悪い気がしないもの。霊能者を自称する人は総じて、こうした人心掌握術に長けたタイプが多いような気がします(だからインチキでも客がつくのでしょう)。

 でも、そもそもライターであることは自己紹介タイムに伝え済み。これをもって本物認定するほどこちらも甘くはありません。「じゃ、過去とか今の状況についてはどう視えてます?」とやってみました。すると。

「すごーく運の強い人やと思う。いろいろあったはずだけど、強烈に守られてるから大事に至らなかった人。心当たりあるんちゃう?」
「はあ、言われてみれば」
「自分のやりたいことは、きっと我慢せんほうがいいと思う。そういう直感で動いても、ちゃんと守ってくれる人がいてるから、たいてい良い方向に運ぶはず」
「守ってくれる人? おばあちゃんかな」
「わからんけど、そうかも」

 ここで外野から、「恋愛運はー?」と野次が飛んできました。このあたりはやはり合コンのノリ。もともと仕事・健康・恋愛は僕にとって質問3点セットですから、まあ渡りに船と言っていい展開です。するとユカリさんは……。

言葉巧みに信じたい欲をくすぐる手練れの手腕

「うーん、この人はしばらく特定の相手には落ち着かないと思う。だって、気づいてるかどうかわからんけど、何人か候補がいるから。今を楽しもうとしてる感じがするわー」

 なるほど、そう来たか。「気がついてないかもしれないけど何人か候補がいる」というのは、実に便利な物言いです。こちらに心当たりがなくても、密かに自分のことを想っている人がいるとも解釈できるから、いい話なので反論したくありません。ていうか積極的に信じたい。

 しかし、この時点で僕は完全に結論を得ていました。短いセッションの中で、ぼろが出にくい上手な言い回しに終始していたユカリさんは間違いなく手練れの部類ですが、残念ながらクロ(インチキ)と言わざるを得ません。だって僕、この時は既婚者だったんですもの……。

 幹事のA君の手前、自発的に既婚をアピールすることは控えていましたが、もともと指輪もしてないし、結果的にすごく意地悪な引っ掛け問題みたいになってしまいました。

 そんな申し訳なさを心に秘めつつも、内心すっかりしらけてしまった僕は、これ以降、「ほうほう」「へえ」「なるほど」を自動的に繰り返すbotのようなキャラに徹するしかありませんでした。

 解散後は、お化けホテルでちょっとした物音にビビりながら眠れぬ夜を過ごした僕。引っ掛け問題の罰が当たったのかもしれません。

 まあ、しかし。期せずして参加することになった久々の合コンは、純粋に楽しかったです。もっともこの2~3年後、僕はシングルに戻って再び合コン三昧の生活を送ることになるんですが……。そこまで言い当ててくれたら本物認定だったのに、残念です。

(つづく)

 


「スピリチュアル探偵」アーカイヴ

友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。

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