スピリチュアル探偵 第9回
オーラが見えたりチャクラを開いたりできる?
アニメ声のエンジェル登場!
現れたのはアニメ声の「天使ちゃん」
看板の類いは出さず、とくに宣伝もしていないのにクチコミで予約が絶えないという天使さん。居場所については固く口止めをされたものの、僕はその日、都内のわりといいエリアのマンションの一室を訪ねました。
ファミリー向けというよりも、お金に余裕のある単身者が多く暮らしていそうなデザインマンション。僕は「天使ってのはこんな贅沢な部屋に住んでいるのか」と思いながらインターフォンを押します。すると迎え入れてくれたのは、下手をするとまだ20代にしか見えない色白の美少女でした。なるほど、たしかにこれは天使かも。
「お待ちしておりましたー」
なんというか、昔のアイドルのような鼻抜けのいいアニメ声。「天使さん」というより「天使ちゃん」と呼びたくなる物腰です。
前金制とのことなので、先にカウンセリング料2万円(60分)を支払い、応接ルームへ。全体的に装飾品が少なく、壁紙もカーテンもソファもすべて白を基調としているのを見て、「天使カラーはやはりホワイトなのかな」などと思ったものです。
まずは名前や生年月日、血液型、住所など一通りの情報を用紙に記入。その間に天使ちゃんがハーブティーらしきものを淹れてくれました。生活感があるようでないこの雰囲気が、どこか非日常的で緊張します。
「今日はヒーリングではなく、カウンセリングのほうでよろしいですか?」
やはりアニメ声でそう言われ、すかさず「はい。オーラを見てもらえるとお聞きしたので、ぜひお願いしたくて」と返しましたが、その前にいろいろ聞いておきたいことが山積みです。
「あの、ヒーリングというのは、どこか体の悪い部分を治してくれるものですか?」
「厳密に言うとそうではないです。エネルギーを受け取るチャクラに働きかけて、インナービューティーを目指すというのが基本ですね」
「は、はあ……」
表情をまったく変えずにそう語る天使ちゃん。インナービューティーってのはてっきりスピリチュアル用語なのかと思ったら、これは美容の分野でたまに使われる用語なんですね(あとで調べた)。ダイエットなど、体の中からキレイになろう的なアレです。
ためになるチャクラとオーラのお話
基本的に表情に乏しい天使ちゃんですが、かといって無愛想なわけではなく、淡々と饒舌に言葉を発するイメージです。ならばと、こちらも取材モードにスイッチを切り替え、あれこれ質問を重ねてみることに。
「チャクラというのが今ひとつわかっていないのですが、これは僕も体のどこかに持っているものなんですか?」
「もちろんです。チャクラは心身やオーラにエネルギーを届ける、いわばエネルギーセンターのようなもので、人は誰しもここから自然界のエネルギーを取り込んで、体内を活性化させているんです」
「すると、なんだか体調が優れないようなときは、チャクラをいじれば復活するようなことも?」
「そうですね。チャクラバランスを整えてあげるだけで、様子はだいぶ変わると思いますよ」
天使ちゃんいわく、ヒーリング目的でやってきた客には、まずチャクラの状態を診断して、その人のネガティブな思考を解きほぐしながら、オーラを浄化してあげるのだそう。
──と、ここまでの短いやり取りを経て、いつになくガーリーなノリに「ここは野郎が訪ねる場所ではなかったのでは……」と不安になり始めた僕。いっそ目の前でスプーンのひとつもねじ切ってもらえれば、手放しで喝采を送るのですが。
でも、何か不思議な力があるからこそ、天使ちゃんはこの仕事をしているはず。もう少し彼女自身について掘り下げてみましょう。
「チャクラバランスを整えられるというのは、人間にはない特別な力なんですか?」
「誰にでもできるわけではないので、生まれ持ったものではありますね。ただ、特別かと言われると、私は普通の人間なのでなんとも……」
「あれ、先生は天使じゃないんですか?」
てっきりそういう設定でやっている人だと思っていたので、これはちょっと予想外。むしろ僕のほうが、天使だと信じてやってきたイタい客みたいになってしまいましたよね。でも、次の言葉はさらに予想の斜め上でした。
「いえ、私は天使のお力を借りている立場です。2000年代に入ってから、地上に流れてくる女神のエネルギーが増え続けているので、こうしてチャクラを整えることで、多くの人を浄化するお手伝いをしているんです」
「女神のエネルギー……」
「ディクシャと言い換えることもありますね。ディクシャはサンスクリット語から派生した祝福を意味する言葉で、人々の心身に届けられる聖なるエネルギーです」
「ディクシャ……」
「そう、ディクシャです。女神の力を借りてエネルギーの波動を高いレベルに調整することで、人は幸せになれますから。ご存じのように高次の存在である大天使の働きかけを知り、ミカエルやラファエル、ウリエルとのエンジェルリンクを得ることで、人の心身の状態は大きく変わります」
ラファエル……ウリエル……エンジェルリンク……って、だんだん手に負えなくなってきました。※実際にはこの3倍くらい専門用語を捲し立てられています。
友清 哲(ともきよ・さとし)
1974年、神奈川県生まれ。フリーライター。近年はルポルタージュを中心に著述を展開中。主な著書に『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『一度は行きたい戦争遺跡』(PHP文庫)、『物語で知る日本酒と酒蔵』『日本クラフトビール紀行』(ともにイースト新書Q)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)ほか。