辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第45回「上の子と下の子の制度的分断」

辻堂ホームズ子育て事件簿
第3子を育てる小説家に
大問題が発生。
上の子たちが保育園を退園に!?

 と、このことに気づいたのは、遅ればせながら、次女の妊娠中だった。息子が生まれたときは、当時1歳の長女はまだ一時保育しか利用したことがなかったため、「上の子保育園退園問題」は発生しなかったのだ。

 私みたいな、ノートパソコン1つあればどこでも仕事できる人間はまだいい。陣痛が来るまで仕事をして、産んだら病院のベッドの上でエッセイを書くような作家には、そもそも復職とかいう概念がないのである。立ち仕事や通勤がないため、産後の体力面でも大きな問題はない。でも、例えば飲食店を経営している人は? 企業と業務委託契約を結んで、限りなくサラリーマンに近い形で仕事をしているフリーランスの方々は? 事務所や法人に所属という形を取っているが実態は個人事業主だったりする弁護士さんや税理士さんたちは? 女性が社会進出して久しく、働き方はどんどん多様化しているのに……。1人目の子だったら問題はない。だけど、上の子がすでに保育園に通っていたら。特に物心がつく年齢になっていれば、数か月だけ幼稚園に転園させてまた定員の空きがあるどこかの保育園に戻す、なんてことをするのは、せっかく仲良くなったお友達や先生たちと無理やり何度も引き離す行為で、あまりにかわいそうだし非現実的だ。

 となると、お店屋さんもフリーランスも一部の士業の方々も、みんな、産後8週間で復職しなきゃいけないのか。ほとんどの子が、まだ3~4時間おきの夜間授乳が必要な時期なのに……。

 育児支援制度が整ってきた令和の世の中にあって、これって意外と、盲点ではないだろうか。

 少なくとも私は、自分がその立場になるまで気づかなかった。普段育児の話をする友達が会社員や公務員ばかりだからかもしれない。もしこのエッセイを読んでいる中に、「現在は会社員だがフリーランス転向を考えていて、将来的に2人以上子どもがほしい」という方がいたら、退職前に一度、第2子以降の産後の働き方を脳内シミュレーションしてみてほしい。

 もちろん、「産後8週で復職しなければならない=下の子を保育園に必ず預けなければならない」というわけではない。調べたところ、理由を付した申立書を自治体に対して提出することで、下の子のみの家庭保育が許可される場合もあるらしい。その場合は、自宅や職場で赤ちゃんを見ながら、もしくは親戚等に見てもらいながら仕事をする、という選択肢を取ることができる。ただ、「下の子を自宅で見ることができる場合は『保育が必要な事由』に該当しない」と、上の子のみの入園を明確に禁じている自治体も散見された。会社員が育児休業中に上の子を保育園に通わせ続けられるのは、あくまで例外という扱いのようだ。

 うーん。ちょっと、叫んでもいいだろうか。

 自分で選んだ道とはいえ──会社員が羨ましい!

 赤ちゃんのお世話で仕事を休んでいる間、手当てももらえるし、上の子たちも強制退園させられないし!!


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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