辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第49回「迫りくる《あの日》」

辻堂ホームズ子育て事件簿
ものすごい勢いで
成長していく子どもたち。
やり残していることはないだろうか。

 Q. 高い雲の上の乗り物、なーんだ?
 A. はしご車とクレーン車

 3歳息子による、ある日の乗り物クイズである。「飛行機!」と自信満々に答えて「ぶっぶー」を食らった母は、この釈然としない気持ちをどこにぶつければいいのか。

 また、この間、テーブルで熱心に作業をしている息子の手元をふと見ると、私が大切に使っていた本の栞を大変綺麗な四つ折りにしていた。わー、上手に折れるようになったね~。でもやめて~。

 生後7か月になってずりばいをしている末っ子もそうだけれど、上の子たちも本当に大きくなったなぁ、と日々実感する。特に長女は、赤ちゃんと大人のどちらに近いかといえば、もう後者な気がする。時計が読めるようになり、「ママ、きょうのおむかえは5じすぎっていってたのに、もう5じ25ふんだよ」などと責められるためお迎え時刻が誤魔化せない。毎月特定の日付になると、「ママ、きょうで5さい1かげつになったよ」などと月齢単位で報告してくる。そんなの親が把握できてないよ。

「わたしはふたりのおねえちゃんだから、たいへんなんだよ~」とぼやいている長女を見ていて、ある日突然、夫が深刻な顔で言い出した。

「この子もあとちょっとで年長さん……まずい! いつか《あの日》が唐突にやってくるぞ! アンパンマンをダサいと言い出す、《あの日》が……ッ!」

 我々世代なら誰もが身に覚えのある、あの現象だ。病気といってもいい。罹患時期はだいたい4歳から6歳にかけて。小さい頃からあんなに大好きだったアンパンマンを、掌を返したように悪しざまに言い始める病だ。

 娘はもう5歳だけれど、幸いにもまだ発症していないようだ。だけどいつ《あの日》が訪れるか分からない。来月かもしれない。来週かもしれない。いや明日かも──! と夫婦そろって浮足立ち、さっそく休日に家族5人で横浜のアンパンマンミュージアムに繰り出した。

 結論、長女も息子もたいへん楽しんでくれたようだ。

 間に合った──と深いため息をついたのは我々両親。だけど一度気づいてしまうと、危機感が雪崩のように押し寄せてくる。──あれ? 本格的に家族でお出かけするのは末っ子がもう少し大きくなってからでいいやと思ってたけど、もしかして悠長に待ってる時間なんてない? 動物園は? 水族館は? 家族旅行は? 末っ子が小学校に上がったら、その翌年には長女が中学生? え? これってもしや多子家庭あるある?

 その懸念は、先日私が上の子ふたりを連れて友人親子とサンリオピューロランドに行った際に、さらに大きくなった。お土産に靴下を買ってあげようとしたら、長女にちょうどいいサイズのものがなかったのだ。子ども用の商品は、今の長女がギリギリ穿ける 18 cm まで。それより大きいものは 23 cm からの大人用。長女が幼児の中では足が大きめなほうというのはもちろんあるだろうけれど、でもでも、やっぱりこういう施設の対象年齢はすでに過ぎつつあるんだ──!

 家でゆっくりするのが大好きな夫と私だけれど、それからは大慌てで、毎週のように子どもたちを連れ回し始めた。牧場で乳搾りやバター作り体験に参加したり、家族で楽しめる温泉施設つき遊園地に行ったり。もはやノルマである。スタンプカードでも作ろうか。いや例のごとく、Google スプレッドシートでタスク管理をしたほうがいいのか。

 時間は有限だ。

 うかうかしていたら、子どもたちのとびきりの笑顔が見られる瞬間が永遠に過ぎ去ってしまう。

 妊娠と出産と赤ちゃんのお世話を3セット繰り返し、絶え間なくおむつ替えと授乳とお着替えの手伝いをしていたら、いつの間にか5年以上の年月が経過していた。まだ次女は小さいけれど、そろそろ出不精な自分たちに活を入れて、ちょっと気持ちを切り替えていかなければならない。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『ダブルマザー』(幻冬舎)。

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