辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第46回「4歳児の心配性」

辻堂ホームズ子育て事件簿
成長とともに思考能力も
上がっていく子どもたち。
完璧とは程遠いのだけれど。

 2024年12月×日

 もう師走か。

 サンタクロースの鈴の音が聞こえてくる季節だ。4歳長女は11月後半ごろからそわそわし始めて、初めてサンタさんへの手紙を書いた。『キティちゃんのぬいぐるみがほしいです』という文面を見て、「サンタさんがうちに来たとき、そりの中にキティちゃんのぬいぐるみがなかったら大変だから、あと2つくらい書いといたら? そしたらきっと、その中から1つもらえるよ」と助言すると、『はちわれ』『まりお』と付け足していた。……おぉ、ぬいぐるみ縛りってこと? なるほどなるほど。うんうん。

 それを見た3歳息子も「キティちゃんかルイージのぬいぐるみがほしい」と言い出す。しかも「マリオのぬいぐるみは●●ちゃん!」と生後4か月の妹のクリスマスプレゼントまで指定してくる。いや……いやいや、我が家ぬいぐるみだらけになりません!? 誰かひとりくらい別のおもちゃを頼んでくれぇぇ……。

 ──という時候の挨拶(?)はともかくとして、〝~たら〟(条件)の話が通じるようになると、ああこの子もずいぶん人間らしくなったな、と実感する。「サンタのそりの中におもちゃの在庫がなかったら」という仮定もそうだし、「小学生になったら」「大人になったら」というような将来についての話も。

 3歳息子も〝~たら〟構文をよく使うけれど、やっぱり用法が限定的だ。「お茶をこぼしたら服が汚れちゃう」という直接的な関係や、「3時になったらおやつを食べる」といった近い未来を表す場合が主で、そのほかはせいぜい「大きくなったら何になりたい」といった将来の夢くらいだろうか。ちなみに彼は、トラックと救急車の運転手さんになりたいらしい(どちらも好きすぎて、一方を選ぶことはできない様子)。

 それに比べると、もうすぐ5歳になる長女は、先の未来の話や仮定の話について、ほんの数か月前より具体的に思考できるようになりつつある。

 以前、何の本を読んでいたときだったろうか、「思考能力とは、『こうなったらこうなる』を幾回繰り返せるようになるかで決まる」というような記述を目にした。12月になったらクリスマスがある。クリスマスになったらサンタさんがやってくる。サンタさんがやってきたらプレゼントがもらえる。プレゼントを事前に頼んだら望みのものを持ってきてくれる可能性がある。希望をいくつか書いておいたら、願いが叶う確率が上がる。だから12月を迎えたらすぐに、複数のプレゼント候補を記載したサンタさんへのお手紙を書こう──。初めはそうした考え方を一切できなかった幼い子どもが、少しずつ「こうなったらこうなる」の繰り返しを会得していく姿を間近で観察するのは、非常に面白い。

 だけどまだまだ、完璧とは程遠いのだ。4歳児の思考回路は。

 我が長女はちょっと、怖がりで慎重派だ。普段から、道に飛び出すとか段差から飛び降りるといった危険なことはほとんどしない代わりに、未知の事態に直面すると動揺してしまうふしがある。そんな彼女の心配性が、思考できる時間の幅が大きくなるとともに、このところ加速し続けている。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『二人目の私が夜歩く』。

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