辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第49回「迫りくる《あの日》」

辻堂ホームズ子育て事件簿
ものすごい勢いで
成長していく子どもたち。
やり残していることはないだろうか。

 1年近く前のエッセイに、「子育てエッセイとは親のエゴでいつまでも続けられるものではない」ということを書いた。

 そろそろ潮時かな、と感じている。

 母になって5年が経ち、長女は自我を持つ一人の人間に成長した。3歳の息子がそうなるのも時間の問題だ。だからこのエッセイも、次回でおしまい。記念すべき50回目というのもあって、まあ、ちょうどいいだろう。

 これから子どもたちはどんどん大きくなっていく。

 いつの間にか成長していて、予期していなかったような問題が突然家庭に振りかかったりするのだろう、と思う。例えばゲームやスマートフォン、動画視聴サービスの使用制限だとか。お友達とのトラブルだとか。進路をめぐる意見の食い違いだとか。

 こういうふうに躾や教育をしたい、こういう道に進んでほしい、といったことはあまり具体的に決めていない。でも大きな目標はある。子どもたちが大人になったときに、「この家庭に生まれてよかった」と心から思ってくれること、だ。

 それってけっこう難しいことじゃないか。

 そのために、まずは常にご機嫌な母でありたい、と思っている。

 もちろん叱るときは叱る。でも感情は引きずらず、次の瞬間には笑って冗談を言う。理想の母親像に唯一の正解なんてないけれど、私は強いていえばそんな母親を目指してみたいと、この5年間で次第に考えるようになった。

 では、このストレスフルな現代社会で、どうすれば常にご機嫌でいられるのか。

 子どもよりも先に、実は自分自身をとことん甘やかすのが大事なんじゃないか、とみている。だから最低でも週に一度は読書をする。毎日必ず湯船に浸かり、寝る前には温かいお茶を飲む。仕事はしすぎないように時間をコントロールする。適度に友人との遊びの予定を入れる。睡眠はなるべく8時間取る。書店でのサイン会で、子ども用の手口拭きとカフェインレスのアールグレイティーの差し入れをしてくださった読者の方の気遣いにも限りなく支えられながら、私は今日を生きている。

 このエッセイの担当編集者さんと書籍化について打ち合わせをしていて、「全部まとめて1冊にするのは無理ですよね?」と尋ねると、「文字の大きさや行数で調整すれば……」という答えが返ってきた。全50回、1回あたり原稿用紙換算で平均10枚超。500枚を超えれば長編小説でも長いと言われるけれど、果たして大丈夫なのか──と心配していると、「やっぱり抜粋したほうがよさそうです!」と後から連絡がきた。ですよね。エッセイ本、しかも子育てがテーマのものに、そんな分厚いイメージはありませんもの。

 この連載用にいろんなことを書き留めていたスマートフォンのメモアプリには、雑多なエピソードがまだたくさん残っていて、もったいない気分にならなくもないけれど……エッセイに書かなかったからといって、思い出や笑い話が消えるわけでもない。 泣いても笑っても(?)、次が最終回なのである。

(つづく)


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』など多数。最新刊は『ダブルマザー』(幻冬舎)。

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