椹野道流の英国つれづれ 第3回

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目についたのは、当時のお花屋さんでは見ることがなかった、オージープランツの類でした。

中でも、ピンクと紫色の中間くらいの色合いの、丸くて小さな花がたくさんついた、青々したものが気になってそろそろと抜いてみると、彼女は「いいねえ」と言ってくれました。

「それは、ワックスフラワーっていうんだ」

「ワックス、フラワー?」

「花が、ワックスかけたみたいにつやっつやでしょ、そんでさ、○△★□◎☆……」

彼女の英語には、コックニーに似た強い訛りがあって、私には全部を聞き取ることはできませんでした。でも、たとえ一部でもわかれば、そして私の言葉もまた一部でも通じれば、当時の私には十分すぎるほど嬉しいことでした。

「安くはないけど、保ちがいいからお勧めだよ。あとは……いいかい、カワイコちゃん」

そう言いながら、彼女は私から花を受け取り、2本一緒に束ねてみせました。

「花屋の秘密を1つ教えてあげよう。花はね、紫と黄色と白を組み合わせときゃ、間違いはないんだ。だから、白い花を取りな」

「白い花……じゃあ、これ」

小花、小花と続いたので、少し大きめの花がいいかなと、私は近くにあったマーガレットを抜いて、彼女に差し出しました。

「いいねえ、イカスねえ」

やはりスパスパと蒸気機関車のように煙草の煙を吐きながら、彼女は目を細めました。

どうやら、私のチョイスは、彼女のおめがねにかなったようです。

「そんじゃ、これはサービス。いい感じにまとまったじゃん」

無造作にかすみ草を1本抜いて合わせ、

「これはねえ、〝baby’s breath〟っていうんだよ。赤ちゃんの息。可愛いだろ」

そんなことを教えてくれながら、彼女は紐で花をぐるぐるっと束ね、新聞紙で雑に巻いて、「はいよ」と手渡してくれました。

差し上げものなのに、新聞紙で包まれちゃった……!

驚き、慌てましたが、プレゼントなので包み直してください、などと言う勇気は私にはなく。

当時の私には決して安くない、むしろかなり高価なお会計を済ませ、とにもかくにも手土産をゲットできたことに安堵して、私は店を出ました。


「椹野道流の英国つれづれ」アーカイヴ

椹野道流(ふしの・みちる)

兵庫県出身。1996年「人買奇談」で講談社の第3回ホワイトハート大賞エンタテインメント小説部門の佳作を受賞。1997年に発売された同作に始まる「奇談」シリーズ(講談社X文庫ホワイトハート)が人気となりロングシリーズに。一方で、法医学教室の監察医としての経験も生かし、「鬼籍通覧」シリーズ(講談社文庫)など監察医もののミステリも発表。ほかに「最後の晩ごはん」「ローウェル骨董店の事件簿」(角川文庫)、「時をかける眼鏡」(集英社オレンジ文庫)各シリーズなど著作多数。

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