『東大読書』の著者、西岡壱誠が語る! 読書の鍵は「能動的な姿勢」にあり。

読書のノウハウについて解説する本、『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』が大きな注目を浴びています。東大生にとって当たり前の習慣である「能動的な読書術」とはどのようなものか、著者である西岡壱誠さんにお聞きしました。

「本を読んでも忘れてしまう」、「何が書いてあったのかよくわからなかった」……、これまで多くの本を読んできたからこそ、そんな悩みを持っている方もいるかもしれません。

そんな人にこそおすすめしたいのは、読書のノウハウを解説している『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(以下、『東大読書』)。かつては偏差値35だった著者、西岡壱誠さんが東大への合格を果たした理由は、東大生にとって当たり前に行われていたとされる「能動的な読書術」にありました。

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出典:http://amzn.asia/d/2jyQiFI

では、実際に東大生の間で自然と行われている「読書術」とはどのようなものなのか。また、読書に限らず「能動的」な姿勢はなぜ重要なのか。西岡さんご自身の東大合格までの経緯を含め、さまざまなお話をうかがいました。

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【プロフィール】
西岡壱誠(にしおか・いっせい)

東京大学3年生。歴代東大合格者ゼロの無名校のビリ(元偏差値35)だったが、東大受験を決意。あえなく2浪が決まった崖っぷちの状況で「『読む力』と『地頭力』を身につける読み方」を実践した結果、みるみる成績が向上し、東大模試全国第4位を獲得。東大にも無事に合格した。
現在は家庭教師として教え子に 「『読む力』と『地頭力』を身につける読み方」 をレクチャーする傍ら、 1973年創刊の学内書評誌「ひろば」の編集長も務める。また、人気漫画『ドラゴン桜2』(講談社)に情報提供を行なう「ドラゴン桜2 東大生チーム『東龍門』」のプロジェクトリーダーを務め、受験や学習全般に関してさまざまな調査・情報提供を行っている。
著書に『現役東大生が教える「ゲーム式」暗記術』『読むだけで点数が上がる!東大生が教えるずるいテスト術』(ともにダイヤモンド社)、『現役東大生が教える 東大のへんな問題 解き方のコツ』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

 

東大生の「当たり前」を言語化した『東大読書』。

── 『東大読書』を執筆された経緯をお聞かせください。

西岡壱誠さん(以下、西岡):僕は普段、学内で配布される書評誌を制作するサークルに所属しています。活動をするうち、「東大生って、どんな風に本を読んでいるんだろう」と気になる瞬間が多くありました。もともと、僕には「偏差値35から2浪してやっとの思いで東大に合格した」という背景があり、東大生の読書方法に興味を持っていたんです。ただ、東大生にとっては、それらはなんてことのない日常的なものでもありました。

── 自分たちが普段やっていることだからこそ、特別なものではないと。

西岡:どん底を見てきた僕から見て、東大生の読書方法は少し違うように思えました。僕自身が東大に合格した大きな要因も、読書のやり方を変えたこと。それも踏まえたうえで、周りの東大生に本の読み方や本に対する考え方を聞いたときに「これまでの僕と同じように、読解力を上げるための読書方法を知らない人は多いんだろうな」と思ったことが、『東大読書』を執筆したきっかけですね。

── 実際に『東大読書』に関して、周囲からはどのような反響がありましたか。

西岡:「こんなこと当たり前じゃん」と言われることもありますが、「こうやって説明されてる本ってなかった」、「なんとなく感覚的に読んでたけど、ここまでしていなかった」という好意的な反応もありますね。それは『東大読書』で紹介されている読書方法を努力して身につけられたできるようになった僕だから、言語化できたのではないかと思います。

── 西岡さんはTwitterの制限文字数の140文字で本を要約することを薦めていて、「#東大読書でつぶやいてくれれば、時間が許す限り僕がチェックします!」と『東大読書』の中で述べられていますね。読者の方々による要約ツイートの、どんなところに注目されているのでしょうか。

西岡:要約をしているツイートはひと通り拝見していますが、『東大読書』をしっかり読めているかの判断基準は、「能動的」というキーワードが出ているかどうか。140字の要約中に「能動的」と出ていれば、その人は『東大読書』を読めている。そういったところまでをチェックしていますね。

 

議論好きの東大生が持つ、「能動的な姿勢」。

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── 重要なキーワードとして「能動的」という言葉をあげられていましたが、東大生の「能動的な読書」に興味を持ったのはどんな瞬間だったのでしょうか。

西岡:東大生は本を読んだ後に「読みっぱなしのままでは気持ち悪い」、「アウトプットしたい」と思う傾向があるのですが、勉強についても同じです。

それが象徴的なのは、日本史や世界史の試験前、東大に合格する人の多くは教科書を読んでいる光景です。しかもただ漫然と読むのではなく、「どうしてこの事件が起こったんだろう」、「なるほど、そんな背景があって社会が動いたんだな」と心の中で納得したり、相槌を打つ「議論読み」の方法をとっているんです。

── 参考書やプリント、要点をまとめたノートとあるなか、揃って教科書を読むのは意外でした。

西岡:「東大は教科書以上の知識を試験に出さない」と明らかになっていることもありますが、東大合格者は教科書から読み取れることを考えたうえで、疑問点を参考書で補完しています。だからこそ、彼らは教科書を能動的に読み、疑問点を見つけていく。そこで本の中では「読書」と「能動的」、ふたつの言葉を組み合わせて解説を行いました。

── 東大合格者は現代文の試験において、どのように問題文を読んでいるのでしょうか。

西岡:東大の入学試験に限らず、センター試験でも「文章から読み取れることを、指定の文字数内で要約する問題」が必ずと言っていいほど出題されます。その文章を読解できたか、理解できたかは「要約できたか」に行き着くのです。

『東大読書』では「文章は最初と最後が重要」と解説していますが、東大生は文章を読み解くためのヒントや作者の主張が多く含まれている最初と最後を重要視しています。

── 「要約できる力」を身につけるのに、『東大読書』は有効なのですね。

西岡:人間は、一面的な情報で満足してしまうことも多いです。トランプ大統領を批判する本があって、それが実際に売れているとなれば「トランプ大統領は良くないんだな」みたいな。でも、東大に合格するためには、両方の視点を持つ必要があります。「賛成か反対か答えなさい」という問題もあれば、逆に「反対意見に対して賛成の意見を書きなさい」という問題もある。そうなると、やはり両方の視点が求められます。「こういう意見もありますが……」と前提を踏まえて書く必要があるのなら、なおさら反対意見も理解できなければいけないですよね。

 

疑問を持つことも、一種のアウトプット。

── 西岡さんは家庭教師として生徒に指導することもあるとのことですが、そこでも『東大読書』で解説されている内容をもとにしているのでしょうか。

西岡:『東大読書』は「どうしたら勉強ができるようになるのか」を解説している本でもありますが、その一環として「授業を受けるときにも使える」と伝えていますね。能動的な姿勢が重要なのは、授業も読書も変わりません。

というのも、授業を受けるだけですべてを理解できる人は、なかなかいないから。能動的に授業を受けることで「これはどういうことなんだろう」と疑問を持ち、先生に質問をしたり、自分で参考書を読むことで理解を深めることができるはずです。

── たしかに、先生が黒板をそのままノートに書いて書き写して終わりにする生徒と、疑問点を持って解決する生徒とでは大きな違いがありますね。

西岡:50分授業を受けて、何ひとつ疑問が浮かばないわけはないんですよ。授業後に質問ができる人、できない人を左右するのは授業を能動的に受けていたのか、そうでないか。僕は質問も一種のアウトプットだと思っているので、「質問できるようにしよう」と呼びかけて能動的な姿勢を引き出そうとしています。

── そう呼びかけることで、生徒に変化は見られますか。

西岡:最終的にその発展系として、「今受けた授業を、今度は自分が再現してみてください」という課題を出しています。「まず初めに何が言いたいのか話して、その説明を踏まえて、最後に主張を言う。つまり、サンドイッチなんだよ。そうすれば、簡単にできるから。」と、アウトプットさせてみる。主張を読み解くためにも、能動的に授業を受けることを意識させていますね。

授業後に「じゃあ今日、僕は何を教えたかったのか分かる?」みたいな質問をしても、授業を能動的に受けていなければわからないでしょう。授業は先生側と生徒による、一種のコミュニケーションだと思います。

── 授業の再現は、まさに「授業の要約」でもあるのですね。

西岡:本の場合は読者から著者に対して、疑問点を持つ、つまり矢印を向けなければいけないのですが、受動的な読み方では一方的に著者からの主張だけで終わってしまいます。しかし、必要なのは読者と著者、両方からの矢印が揃うこと。両方が揃って初めて、読者がその本を理解できるんです。それがうまい本は「ここで突然ですが、クイズです」なんて書き方で読者に興味を持たせ、会話にすることにつなげています。

 

『東大読書』のノウハウを、小説にも生かす。

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── 西岡さんはどのような作家やジャンルがお好きなのでしょうか。

西岡:作家でいえば坂口安吾が好きですが、ライトノベルや漫画も読むので、本当に多岐にわたります。書評サークルでの活動でも同じことがいえるのですが、同じテーマで書評を書こうとしたとき、ポップなものから重厚なものまでさまざまな作品が集まるなと思って。テーマが「ニーチェ」だったら、原書のニーチェもあれば、それを翻訳したもの、さらにその言葉が柔らかくなった名言集、漫画の『ニーチェ先生』もある。そう考えると、読書における範囲って、かなり広いですよね。「ファンタジー」としても、『ドラゴンクエスト』かもしれないし、『ハリー・ポッター』シリーズかもしれないし、『暁の円卓』かもしれない。それらを合わせて読むからこそ、ファンタジーの面白さがわかることもあります。

── 「テーマ」といえば、西岡さんは『東大読書』でもテーマを決めて読書を行う方法を紹介されています。西岡さんの「今年のマイテーマ」をお聞かせください。

西岡:「アウトプット」が大きいテーマでした。たとえば堀江貴文さんの『多動力』や、箕輪厚介さんの『死ぬこと以外かすり傷』、田中修治さんの『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』。いずれも「とにかく動け」、「何も考えずにとりあえず動いてみて、実践しろ」という考えが根本にある作品だと思います。それも、アウトプットがなぜ大事なのか、動くことの大切さを紹介しています。

インプットで完結させず、アウトプットする中で自分に欠けている部分を吸収する。僕はこれをPDCA(※1)だと考えています。

── その他、今年読んだ作品で面白かったものはありますか。

西岡:最近でいえば、ドストエフスキーの面白さを再認識しました。書評サークルでセカイ系(※2)を題材にしたときに出た、「ドストエフスキーの『二重人格』はセカイ系なのではないか」という意見をきっかけに読んだのですが、ドストエフスキーはどの作品においても「他人に自分という人間は分かってもらえない」というテーマを描き続けていて、そんなテーマが読み解ける古典作品が、今も評価されているのは面白いと思って。

── たしかに『カラマーゾフの兄弟』も『賭博者』も、「他人には理解してもらえない」ことを描いている点でいえば、共通していますね。

西岡:「分かり合えないけど、分かりあおうとしているんだ」っていう本は昔からあるし、これからも続いていくと思います。

本には、著者のこだわりや主題が絶対に入っているんですよ。読んだ人がどうなってほしいか、そんな主題はあるはずです。「情熱を知って欲しい」のであれば、最初と最後に「情熱」っていうワードが出てきたりする。それは、小説でもビジネス書でも、新書でも漫画でも変わらない。

── そうなると、『東大読書』の手法は小説にも生かせるのでしょうか。

西岡:難しい部分もありますが、不可能ではないと思います。たとえば『走れメロス』であれば、友情や、人を信じることの大切さが読み取れる本ですよね。それは単純に「メロスが友達を裏切らずに頑張る話」という視点ではなくて。そのテーマを深読みすると「人を信じられない王様が、人を信じられるようになった」っていう筋の通ったストーリーが最初と最後で読めるような。そう考えると、『東大読書』も生かせますね。

※1:Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)という4段階を繰り返すことで、仕事を改善・効率化できるとされている方法のこと。
※2:少年と少女の関係が、世界の行く末に直接関わるという物語構造における特定の傾向を指す言葉。

 

「自分にしかできないこと」を目指していきたい。

── 西岡さんはこれまでにも東大を題材とした書籍を執筆されています。今後も東大に触れられる本を執筆されるのでしょうか。

西岡:直近でいえば、東大生100人を対象としたアンケートをもとに、東大生が何を読んでいるのか、レビューを入れつつ東大生の読書方法を解説する『東大生の本棚 「読解力」と「思考力」を鍛える本の読み方・選び方』という本が出版されました。今後も、東大生と読書に関する本は書いていきたいです。

── 西岡さんにとって、本の出版とはどのようなものなのでしょうか。

西岡:僕は本を出版する前、『情報は一冊のノートにまとめなさい』の著者である奥野宣之さんから「本を出したいんだって?それは変なことなんだよ」って言われたことがあります。その理由を聞いたら、「ウェブメディアもブログもテレビもある時代、自分の考えを発信する方法には困らない。それでも執筆という過酷な作業もある本をあえて選ぶのなら、それだけ君の中にロックな思いがあるはずだよ」と返ってきて。それを聞いて本の出版とはますます特別なことなんだな、と思いました。

── では、最後に今後の展望をお聞かせください。

西岡:『東大読書』は、偏差値35から東大に合格した僕にしか書けない本だと思っています。それは、1番下にいた時の気持ちがわかるから、東大生たちの当たり前を感覚的なものから言語化できたからに他なりません。そんな、僕にしかできないことをやっていきたいという願望は常にあります。それを形にする意味でも、執筆は絶対に続けていきたいです。

<了>

初出:P+D MAGAZINE(2018/11/07)

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