むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第12回

むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第12回
 お 題 
誰かに会いたくなるような、駆け出したくなるような、エモーショナルな気分に浸りたい時に読む本

 人生は長い。仕事や人間関係に疲れる日もある。会いたいな。会って話を聞いてほしい。大切なあなたの笑顔に会いたい。そんな気持ちになる時に、読みたい一冊を紹介したい。

『旅立ちの日に』の港町には、たくさんの優しさと人との出会いが待っているのだ。

 心に染み入る、この言葉。「あなたに出会えてよかった」

 私も伝えたい人がいる。人生は乗り越えるには苦しくて、もう独りでもいいや……なんて思ったり。でも物語を読んでいると、心が突き動かされる。会いにゆくべきだと。真っすぐに伝えたい気持ち。優しいあなたに出会える未来に、会いにゆきたい。ずっと遠い距離だとしても。旅立つ背中を「総合案内係」さんに見送ってほしい。振り返って、手を振って。泣いてしまうかもしれないけれど、その涙もまた温かな思い出にして大切にしたい。

 作中で電車を追いかけて友達を見送る場面では、私も追いかけて、走って。彼といっしょに駆け抜けている気持ちになっていました。伝えたい想いが走らせる。走って、会いにゆくから。

 港町からはじまる人生の物語。見送る人、見送られる人、港町のフェリーから旅立つ時を、カメラに一瞬を刻みつけて写すように、永遠に残してゆきたい。港町の美しい景色も。その美しさは、人生における青春の日々を忘れないように。心のキャンバスに優しく色づいて、きらきらと光をともして。春に咲く桜のように。いつまでもきっと、忘れられない景色になる。

 誰かに会いたくなる一冊を読んだら、もう会いたくなってしまった。いますぐ、会いに行こうかな。

旅立ちの日に

『旅立ちの日に』
清水晴木
中央公論新社

河東優衣(かとう・ゆい)
犬と猫大好き! お休みの日は絵を描いています。


【次のお題】
過去の自分に会えるとしたらおすすめしたい「この本に出会っていれば、人生変わったかも…」という本
【答える人】
紀伊國屋書店 エブリイ津高店 高見晴子さん
 
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。


〈「STORY BOX」2023年8月号掲載〉

採れたて本!【エンタメ#11】
著者の窓 第28回 ◈ 若松英輔『光であることば』