むちゃぶり御免!書店員リレーコラム*第8回
何度も読み返している、本が好きになった想い出の本
これを言うと盛っていると言われそうだが、正真正銘のことだ。本が呼んでいる、気になりすぎる本と遭遇することがある。読む前から忘れられない本になる予感、確信があると言っても過言ではない。
その本との出会いは書店員として働き、毎日毎日ローテーションのように仕事をこなし、何かしたいということに無縁だったという時に訪れた。
早瀬耕著『未必のマクベス』。
分厚い本だが、読み終わるのが寂しい、一日で読まずにはいられなかった。
IT企業に勤める中井は、バンコクで取引を成功させ、出張先で娼婦に「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」と予言めいた言葉を告げられる。王の冠をつけ、進まなければいけなかった中井。登場する人物たちが魅力的で、何か含むものがあるようで、世界に引き込まれる。
犯罪小説でありながら、切ない初恋に思いを巡らせ、現在と過去の愛の小説でもある。ジャンル付けできない「未必のマクベス」というジャンルの小説といえる。
読み終わって、何かに取り憑かれたように発注していた。「これからこの小説と出会える、まだ読んでいない人がうらやましい」と思った。冒頭で、中井に同僚の伴が、世界中で多くのチケットを売り、上演されているシェークスピアは、たいてい結末を知っていると言う場面がある。何回も読み返した今、それはこの小説のことを言っているようだ。
結末を知っていてもこの心震える小説を大切な思い出とともに何度でも読み返したい。
『未必のマクベス』
早瀬 耕
ハヤカワ文庫
山中真理(やまなか・まり)
幼い頃から本屋が一日中いられる遊び場だった。推し本を見つけたら、徹底的に推していきます。
【次のお題】
落ち込んでいる大切な人に元気になってねと気持ちをこめて贈りたい本、或いは自分を前向きにさせた本
【答える人】
宮脇書店 青森店 大竹真奈美さん
本連載は、「〇〇な時に読む本」というお題で、書店員の皆様に「推し本」を紹介していただきます。〇〇部分は、前号執筆した方が、次の執筆者に対して提案します。
〈「STORY BOX」2023年4月号掲載〉