蛭田亜紗子 × 石田ニコル 『フィッターXの異常な愛情』 刊行記念トークショー
9月18日、三省堂書店神保町本店にて文庫版『フィッターXの異常な愛情』発売記念トークイベントが開催されました。登壇したのは著者である蛭田亜紗子さんと、モデル・女優として活躍中の石田ニコルさん。「女性を苦しめるいろんな呪縛を、ランジェリーの力を借りて解き放ちたかった」と語る蛭田さんと、ランジェリー好きというご縁から同作に熱い解説を寄せてくださったニコルさん。当日のトークショーの様子をお届けします。
──本日のトークショー、どうぞよろしくお願いいたします。おふたりは今日が初対面なんですよね?
蛭田 はい、さっき控え室でお会いしたのが初めてです。それにしても間近で向き合うと本当にお人形のような……。そのお顔の立体感、私にも分けてください(笑)。
石田 私のほうこそ『フィッターXの異常な愛情』という作品に心を奪われたので、解説なんて大役をいただいた上に、作者の方にまでお会いできるなんて光栄です。主人公の颯子と私は同世代ですから、読んでいる間ずっと「なんて女性の心を掴んでくる小説なんだ!」と思っていました。
──『フィッターXの異常な愛情』は多忙な毎日に疲れ切った会社員・颯子が、たまたま入ったランジェリーショップで風変わりな店員と出会うところから始まる連作短編集です。颯子の人生を変えるキーパーソンとなるのが、伊佐治という男性のランジェリーフィッター。男性のフィッターという異色の設定はどこから生まれたのでしょう。
蛭田 もともとは下着の話ありきではなく、「男性が就いていたら意外性のある職業ってなんだろう?」というところが出発点でした。それでふと「男性のフィッターがいたら面白いかも」と思いついて、膨らませていったのが始まりです。
石田 まずはそこに驚きますよね。フィッターってそもそも女性のバストを測るお仕事ですから、当然女性のはずなのに。冒頭から「男性のフィッターさんってどういうこと!?」ってドキドキしながら読み進めたのですが、この伊佐治のキャラクターがすごくいい。初対面の颯子の上半身をフィッティングした後で、「脚を組むくせがある」「肩こりに悩まされている」「20歳のころと比べて5キロ以上太った」ってズバズバ言い当ててくるんです。あ、今「私も当てはまる」とドキッとしたあなたは必読です(笑)。
蛭田 そう、伊佐治はすごく毒舌なキャラなんです。初対面の相手に「2年以上彼氏がいないですね」と言い放つような。
石田 でもその一方で、女の子以上に女の子の気持ちをわかってくれる素敵な男性でもありますよね。颯子に対しては言葉が鋭いときもあるけれど、店を訪れるお客さまへの愛情や優しさはしっかり伝わってくる。男性のフィッターなんてありえないと思っていましたけど、伊佐治にだったら私もフィッティングしてほしいくらいです。
──おふたりはもともとランジェリーに興味があったのでしょうか。
蛭田 私はこの本を書くまでは、そもそも下着にそんなに興味がなくて。でも何軒かランジェリーショップを取材させていただく中で、やっぱりランジェリー観のようなものは変化してきましたね。下着って、常に肌に触れているものだけれども、基本、外からは見えない。こだわっているのか、全然こだわらないのか、他人からはわからない。でもだからこそ、その人の深いところに関わっているものなのかな、と感じるようになりましたね。
石田 私は解説でも書かせていただいたのですが、以前に舞台でストリッパー役を演じたことがきっかけで、ストリッパーにとっての衣装であるランジェリーにも興味が湧いてきて。露出した肌とのバランスや、女性ならではの体の曲線美に目覚めたことで、ランジェリーが大好きになりましたね。
──物語の中では身につけるランジェリーを見直すことで、颯子をはじめとしたさまざまな登場人物たちも自身を見つめ直し、よい方向へと変化していきます。ニコルさんもそういった経験はありますか。
石田 わかります。私、緊張する仕事の日には、お気に入りのランジェリーを着ていくんです。そうすることで、気持ちがちょっとだけ強くなれるので。精神的な部分を支えてくれる。だから、ランジェリーは私にとっての「お守り」のような存在なんです。
──女性にとってランジェリーは、年齢とともに変化していく体に寄り添ってくれるアイテムでもあります。おふたりはランジェリーを選ぶ際にどんなところにこだわっていますか。
蛭田 私の場合は、理想とするバストは人生のそのときどきで変わってくるんだな、ということを最近感じるようになりましたね。30代前半まではやっぱり「寄せて上げて」を意識していたんです。でも最近ではだんだんと肌へのあたりの気持ちよさや、楽だけれどもきれいに見える、というポイントが自分の中ではより大事になってきました。
石田 私の場合はモデルという仕事柄、洋服に影響が出ないように、シンプルだけどかわいいもの、それでいて体のラインをきれいに見せてくれるもの、という基準で選ぶようにしています。
蛭田 そういえば解説で、上下、つまりブラとパンツをあえて別々のものでコーディネートしているって書かれていましたよね。すごく新鮮だなぁって衝撃を受けました。
石田 アメリカのランジェリーショップを訪れたときに、「自分で好きに組み合わせてください」っていう商品が多かったんです。グレーとピンクみたいにお好みの色や素材でどうぞ、という感じで。それがきっかけですね。私、水着もそうなんです。上下セットを何組か買って、いろいろな柄を組み合わせてみたりするのが楽しい。
蛭田 すごい。上級者の楽しみ方ですね。
石田 アメリカの女の子は普通にやっているみたいなんです。映画を観ていても、上下別々の下着の子っていますよね? 日本の女の子はそれをNGなことだと思い込んでいるかもしれないけど、そんなことないんです。シンプルなもの同士なら、誰でも難しくなくコーディネートできますよ。
蛭田 そうなんですね。私もがんばってみます。秋冬のコーディネートで、ファッションとの組み合わせのコツはありますか?
石田 例えば、私はノンワイヤーのブラが好きなんですけど、ニットに合わせるときはノンワイヤーブラが相性がいいんじゃないかなと思います。ワイヤーブラだとバストのボリュームが出すぎてしまう気がして。あとはざっくりめのニットを着たときに、肩からチラッとブラの線が見えるのもかわいいですよね。そういうときは見せに行くくらいの感じのほうがむしろかわいいです。
蛭田 なるほど。そういう風に聞くと「見せる」ブラもありなんだな、と思えます。
石田 日本の文化は着物のように「隠す」美しさが上品とされていますよね。もちろんその美もすごく大事ですが、そこだけに囚われなくてもいいと思うんです。もちろんセットでもOK。でも上下別々に組み合わせても自分でかわいいと思えるならOK。そこに正解はないと私は思っています。
蛭田 見えない部分だからこそ、誰もがそれぞれ自由に楽しめばいいですよね。すごく参考になりました。ところで私、実は服を作るのが趣味でして、最近は下着も作るようになったんです。ちょっと今日いくつかお持ちしたのですが……。
石田 ええ、これご自身で作られたんですか? わぁ……すごい、めっちゃかわいい!
蛭田 実は今日、着ているのはブラレットで、このショーツとセットになっているんです。
石田 ええ~! かわいすぎる……! あ、ノンワイヤーなんですね。近くで見るとさらに素敵。
蛭田 ノンワイヤーなのでルームウェアにも使えるかな、って。最近のブラレットって、ノンワイヤーやレースのものが流行っていますよね。
石田 型紙は? 素材はどうしてるんですか?
蛭田 適当です(笑)。というか、日本だと下着の型紙が見つからないんですよ。だから海外の型紙を使ったりしています。素材は日本で普通に買えるものです。
石田 一着作るのにどれくらい時間がかかりますか?
蛭田 ブラで1時間、ショーツで30分くらいでしょうか。ただ、まだ試行錯誤中なので、いざ着てみたらカップが合ってなかった、なんてことも(笑)。
石田 でもこんな素敵なランジェリーなら、肌にまとうだけで気持ちが上向きになれそう。ランジェリーの持つ力って、やっぱりそういうところだと思うんです。『フィッターXの異常な愛情』もきっと同じで、読んだ後に視界が明るく広がって、スッと前を向けるようになる物語だと私は感じていて。ランジェリーに正解がないように、女性の人生にも「正解」なんてないんですよね。でも心細いときには自信を持たせてくれる、そんな「お守り」のような素敵な小説だと思っています。
蛭田 熱心に読んでくださって本当にありがとうございます。今の時代の女性たちを苦しめているいろんな呪縛を、ランジェリーの力を借りてひとつずつ解き放っていく……そういうお話を書いたつもりです。一人でも多くの女性の「お守り」のように感じてもらえたら嬉しいです。
〈「きらら」2018年11月号掲載〉
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蛭田亜紗子(ひるた・あさこ)
1979年北海道生まれ。広告代理店勤務を経て、2008年、『自縄自縛の二乗』で新潮社第7回「女による女のためのR─18文学賞」大賞を受賞。10年、『自縄自縛の私』を刊行しデビュー。同作は13年に竹中直人監督で映画化された。著書に『人肌ショコラリキュール』『愛を振り込む』『凜』『エンディングドレス』など。
石田ニコル(いしだ・にこる)
1990年、山口県出身。ハワイ州観光局親善大使。様々なファッション誌やランウェイでモデルとして活躍。現在TBS系「王様のブランチ」にてレギュラー出演中。女優としての出演作品にはミュージカル「RENT」、ドラマ「ファースト・クラス」「サムライせんせい」「勇者ヨシヒコと導かれし七人」「模倣犯」「悦ちゃん」「サバイバル・ウェディング」などがある。