蛭田亜紗子 × 石田ニコル 『フィッターXの異常な愛情』 刊行記念トークショー②
9月18日、三省堂書店神保町本店にて文庫版『フィッターXの異常な愛情』発売記念トークイベントが開催されました。登壇したのは著者である蛭田亜紗子さんと、モデル・女優として活躍中の石田ニコルさん。
文芸誌「きらら」11月号で掲載した対談の様子を先日小説丸でも公開しました(こちら)が、今回はなんと! 小説丸だけでしか読めない、対談の「つづき」を公開します。おふたりの恋愛観から人生観まで。熱いトークを最後まで、お楽しみください。
私たちが恋や結婚に求めるもの
──ランジェリーはときに恋を盛り上げる“小道具”にもなります。小説の後半では久しぶりの恋にときめく颯子が、自分と相手の好みの違いに悩むシーンが描かれますが、おふたりの恋愛観についても教えてください。
石田 私は無理をして相手に合わせるような恋愛は、できればしたくないですね。自分に嘘をついてまで、一緒にいるのはつらい。颯子のようにお気に入りのネイルを「血豆みたい。俺の趣味じゃない」なんて言われたら、「そんなこと言わなくてもいいのに!」って多分怒ると思います。誰だってみんな自分なりの好みやスタイルがあると思うので、恋人にもそこは尊重してほしいな。
蛭田 私は結婚してもう恋愛から遠く離れてしまったので何も思い出せない感じなのですが、やっぱり等身大の自分で付き合える人が一番だとは思います。今は夫とふたり暮らしなのですが、もう恋愛ではなくて生活ですね。
石田 旦那さんとはどこで出会ったんですか?
蛭田 会社の先輩だったんです。だから彼のほうが18歳上、もうだいぶおじさんなんです(笑)。
石田 わあ、年の差カップルなんですね。
蛭田 ニコルさんはどんな人がタイプですか?
石田 私は昔から武士みたいな人が好きですね。武士というか戦国武将のような男性。
蛭田 ええ? なぜまた武士(笑)。
石田 芯がしっかりしていて、ドーンと落ち着いている人が好きなんです。だから『フィッターXの異常な愛情』のキャラの中から選ぶなら、やっぱり伊佐治がいいですね。辛口ではあるけれども、そこには愛情があるからだんだん慣れてくるんじゃないかな。
──蛭田さんは「恋愛」から「生活」になったとのことですが、夫婦円満の秘訣はなんでしょう。
蛭田 「分担」ですね。我が家では夫は皿洗いとゴミ捨てを、それ以外は私の担当なんです。うちの場合は役割が分かれていないと不満がモヤモヤたまって揉め事が起きるので、部屋もそれぞれ用の個室があるんですね。自分の部屋、空間があることが私にとっても大事なことなので、そこを理解し合える相手じゃないと難しかったかもしれません。
石田 価値観が一致する相手、いいですよね。うちの両親も性格はそんなに似ていないのですが、「土曜は映画を一緒に観る日」とか決めていて、すごく仲良しなんですよ。そういう夫婦の姿は娘から見てもいいな、と思いますね。
落ち込んだとき、どうやって心を立て直す?
──ここからはトークイベント参加者からの質問にもおふたりにお答えいただきたいと思います。まずは、「おふたりは落ち込んだとき、悲しいときはどんな風に心を立て直しますか?」という質問ですが。
石田 私は底の底まで落ちきります。「私は悲しいんだ」という感情をしっかり味わうために、あえて悲しい曲を聴いたりなんかして。
蛭田 その姿勢がすでに武士ですね(笑)。私は猫と暮らしているので、猫のお腹に顔をうずめてスーハーと匂いを嗅いで癒やされます。猫の癒やし効果は素晴らしいです。もちろん問題の解決にはならないんですけど、気持ちは癒やされますね。
──続いては「いつも女性らしくいるために心がけていることを教えてください」という質問です。
石田 女性らしく、ですか……。うーん、私は普段は「中身がおじさんっぽい」って友達から言われるくらいなのであまり自信がないのですが、「いい匂いをさせる」ことは効く気がします。お風呂上がりに好きな香りのボディクリームを塗ってみるとか、そんなちょっとしたことだけでも、自分の気持ちがよい方向に変化して、仕草が丁寧になってくる。ボディクリームやミストで好きな匂いをまとわせることを習慣にするといいんじゃないかな。
蛭田 これは質問された方がおそらく望まれる回答ではないと思うのですが、質問の意図するところの「女性らしさ」ってそもそもなんだろう? ということが私は気になりますね。「女性らしさ」ってすごく押し付けがましい感じのある言葉かな、と個人的には思うんですね。「女らしさ」「男らしさ」って社会が勝手に押し付けているものだと思うので、もうちょっと一人ひとりがその思い込みからラクになっていってもいいのかな、と私は思っています。
「下着=エロい」ばかりじゃない、男性にも読んでほしい理由
──『フィッターXの異常な愛情』でもそのテーマが描かれていますね。そういう意味でも女性だけでなく、男性にもぜひ読んでほしいですね。
蛭田 そうですね。タイトルが「異常な愛情」なので誤解されるかもしれませんが、そんないかがわしい内容ではないのでぜひ男性にも読んでもらえると嬉しいです。下着に対する意識って、男性と女性ではずいぶん違うと思っていて。「女の下着=エロい」ばかりではないので、そこの目線の違いを面白がってもらえたら。
石田 もっと寄り添ってくれるし、自信を持たせてくれるものですよね。私、落ち込んで弱気になっちゃったときや「自分を変えたいな」と思ったときは、ふらっと下着屋さんに行ったりしますもん。私にとってランジェリーは励ましてくれる存在でもあるんです。赤リップも同じで、1本カバンに入れておくだけで励まされる。
蛭田 わかります。私も部屋が散らかっていたり、気持ちがぐちゃぐちゃだったりとか、エネルギーが落ちているときに下着屋さんに行きたくなりますね。心や生活を立て直して、もう一度前を向くエネルギーがもらえるきっかけになるので。この本も読者にとってそんな存在になれたら嬉しいな、と思っています。
蛭田亜紗子(ひるた・あさこ)
1979年北海道生まれ。広告代理店勤務を経て、2008年、『自縄自縛の二乗』で新潮社第7回「女による女のためのR─18文学賞」大賞を受賞。10年、『自縄自縛の私』を刊行しデビュー。同作は13年に竹中直人監督で映画化された。著書に『人肌ショコラリキュール』『愛を振り込む』『凜』『エンディングドレス』など。
石田ニコル(いしだ・にこる)
1990年、山口県出身。ハワイ州観光局親善大使。様々なファッション誌やランウェイでモデルとして活躍。現在TBS系「王様のブランチ」にてレギュラー出演中。女優としての出演作品にはミュージカル「RENT」、ドラマ「ファースト・クラス」「サムライせんせい」「勇者ヨシヒコと導かれし七人」「模倣犯」「悦ちゃん」「サバイバル・ウェディング」などがある。