子どもたちを熱狂させたTV放送枠『タケダアワーの時代』

『月光仮面』や『ウルトラQ』など、1958年から17年にわたって子どもたちを熱狂させたテレビ番組の放送枠・通称「タケダアワー」。大人たちが熱意を込めて子ども番組を作った時代の、人間ドラマが浮かび上がる一冊を紹介!

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
与那原 恵【ノンフィクションライター】

タケダアワーの時代
タケダアワーの時代 書影
友井健人他 著
洋泉社
1400円+税
装丁/川名 潤

日曜夜7時の楽しみを17年間支え続けた理念・観念

一九五八年から七四年にかけて、子どもたちを熱狂させたテレビ番組の放送枠があった。TBSの日曜日夜七時、通称「タケダアワー」といわれるものだ。『月光仮面』『ジャガーの眼』『隠密剣士』、そして『ウルトラQ』に始まるウルトラシリーズ、さらに『柔道一直線』などの人気番組を生み出した。
番組は武田薬品の一社提供で、オープニングの「タケダ、タケダ、タケダ〜」のコーラスは忘れられない。本書はタケダアワーの十七年間を、スポンサーとの信頼関係を築き、番組制作もした広告代理店「宣弘社」やTBSの担当者などの証言を交え、検証していく。
ところでわが家は、民主主義を唱える父の方針により、家族一人ずつ一日三十分の番組を選べることになっていた。日曜夜、兄がタケダアワーを熱心に見たあとは私の持ち時間で、不二家提供の『サインはV』(私が通っていた小学校のボロ体育館でロケされた)を見た。子どもを中心に、家族そろってテレビを楽しむ時代だった。
このころ、人々の生活にも余裕が生まれ、治療薬だけではなくビタミン剤などの保健薬も出回り、製薬業界が活発となっていたことも、タケダアワー誕生の背景にはある。子どもに付き合ってテレビを見る親世代にも商品購買をアピールすることができたのだ。
とはいえ、武田薬品は番組内容にはほとんど口を挟むことなく、制作現場を尊重していたという。また制作側は〈単に幼稚な番組ではなく、勧善懲悪などの大切な理念・観念を含んでいる〉ものを作る姿勢を保っていた、と証言している。私にも印象深い『ウルトラQ』は、当時の社会問題も織り込まれていて、毛色の変わったドラマだと感じたが、スポンサーはこれも受け入れたのだ。
この放送枠を担った宣弘社の小林利雄社長は『月光仮面』を制作した人でもある。一九五五年に世界一周の広告視察旅行に出て、テレビドラマの隆盛を知り、数々のヒット作を生んだ。大人たちが熱意を込めて子ども番組を作った時代の人間ドラマが浮かび上がる。

(週刊ポスト 2018年1.12/19号より)

初出:P+D MAGAZINE(2018/07/06)

◎編集者コラム◎『極夜の警官』ラグナル・ヨナソン 訳/吉田 薫
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