生命の営みをユーモラスに語る『英国王立園芸協会とたのしむ 植物のふしぎ』

花や野菜などの植物から鳥や地中の生き物たちまで、たっぷりの美しい図版で紹介。単なる園芸法指南ではなく、さまざまな生命の営みを愛情を込めて見つめ、ユーモラスに語る楽しい本です。

【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
与那原 恵【ノンフィクションライター】

英国王立園芸協会とたのしむ 植物のふしぎ
英国王立園芸協会とたのしむ 植物のふしぎ 書影
ガイ・バーター 著
北 綾子 訳
河出書房新社 2200円+税
装丁/田村奈緒

愛情を込めて見つめユーモラスに語られる生命の営み

花や木、果物や野菜などの植物や、鳥や地中の生き物たちまで、美しい図版がたっぷりおさめられていて、ページをめくっているだけでも楽しい本である。
著者は、一八〇四年創立という英国王立園芸協会の園芸チーフアドバイザーだ。本書は、植物が好きな人、植物を育てている人がふと疑問に思うような約百三十の事柄をわかりやすく説明してくれる。とはいえ、単なる園芸法指南ではなく、さまざまな生命の営みを愛情込めて見つめ、ユーモラスに語っているのが本書の魅力だ。
自然とは、本来、弱肉強食の世界である。植物たちはライバルを蹴落とし、繁殖に成功して子孫を残すための熾烈な戦いを繰り返している。生き残るためには手段を選ばず、情け容赦なくふるまうというのだが、読むうちに人間たちの世界を語っているようにも思えてくる。
たとえば、木はどうしてあんなに大きくなるの? に対する回答は〈競争相手をしのいで生存競争に勝つには大きければ大きいほど有利になる。大きくなることで相手を自分の陰に追いやり、地中の水分と栄養を独り占めして、ほかの植物の生長を阻むことができるからだ〉。まるで一人勝ちするグローバル企業のようである。もっとも、大きくなりすぎて生きていけなくなる木もあるのだが、オーク(楢)は〈いちど死んだふりをして復活するという技を身につけた〉というから、たくましい。
その一方、「雑草」もがんばっている。〈雑草の多くは生育がはやいだけでなく、繁殖力が強く膨大な数のタネをつくる。なかには、長いあいだ休眠することができ、望みどおりの条件が揃ったときにだけ芽を出すものもある。環境が整っているので根づきやすく、のびのび育つことができるからだ〉。
そんな雑草の可憐な花々を特殊な手法で撮影したのが大作晃一写真・多田多恵子文の『美しき小さな雑草の花図鑑』(山と渓谷社)だ。虫の視線から見れば、どの花も驚くほど個性豊かだ。懸命に生き抜こうとする雑草の姿に癒される。

(週刊ポスト 2018年3.16号より)

初出:P+D MAGAZINE(2018/07/30)

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