「知識の継承」に参加したい人へ『図説古代文字入門』
古代エジプトのヒエログリフや、古代メソポタミアの楔形文字などなど……。ロマンあふれる古代文字の世界へいざなう入門書を読んで、あなたも「知識の継承」に参加してみませんか?
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
与那原 恵【ノンフィクションライター】
図説古代文字入門
大城道則 編著
河出書房新社
1800円+税
装丁/日高達雄
老若男女問わず参加できる「知識の継承」という最高の趣味
エジプトのスエズ湾近くで世界最古のパピルスが発見されたのは二〇一三年である。解読が進められ、約四五〇〇年前のピラミッド建築の労働の様子などが記録されていることが明らかになった。
このニュースを知って、文字というのはすごいなと感心したが、本書は豊かな「古代文字」の世界へと誘ってくれる。初めて知ることばかりで、ワクワクしながら読んだ。豊富な図説もあり、眺めているだけでも楽しいのだが、古代文字を実際に読んでみるための解説がとても丁寧で、ナルホド! と何度も膝を打った。そして何より、古代文字解読に情熱を傾ける人たちと、その歴史を知ったことが大きな収穫だった。
よく知られる古代エジプトのヒエログリフ。紀元前三〇〇〇年ごろ、筆記システム(書き言葉)が十分に確立されていたのだが、四世紀を境に忘れ去られてしまった。その解読の契機は十七世紀にさかのぼるが、一七九九年のナポレオン軍によるロゼッタ・ストーン(三種の文字で書かれていた)の発見により、新たな局面を迎え、研究が進展していった。
古代メソポタミアの楔形文字、古代スーダンのメロエ文字、マヤ文明のマヤ文字……。どれも遠い過去の生活ぶりをいきいきと語っている。中国の甲骨文は漢字の祖形の一つであると知れば、ぐっと身近に感じられる。
アルファベットの起源ともされる文字は、フェニキア人によって東地中海沿岸から北アフリカへと伝えられ、またヴァイキングは北欧からイギリスへとルーン文字を伝えた。古代文字は人々の移動の跡も物語っているのだ。
絶海の孤島イースター島にはロンゴロンゴという文字があったのだが、島の原住民がほとんど絶滅してしまい、知識の継承は断絶された。ほかにも、世界中に未解読文字の存在が確認されている。
編著者は、一つのきっかけ、一つの史料の発見で、状況が大きく変わりうるという古代文字解読は、老若男女問わず参加できる最高の趣味だと熱く説くのである。
(週刊ポスト 2018年7.6号より)
初出:P+D MAGAZINE(2018/09/16)