桃崎有一郎『武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世』/武士は一体いつ、どこであらわれた? 長年の謎に挑む!
武士がどのようにしてあらわれたのか、実はながらく謎とされてきました。さまざまな指摘や学説があるなかで、著者は史料を徹底的に読みこみ、真正面からこの謎に挑みます。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
井上章一【国際日本文化研究センター教授】
武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世
桃崎有一郎 著
ちくま新書
980円+税
農村成立説では語りつくせない長年の謎に正面からいどむ
武士とよばれる社会集団は、いつどこで、どのようにしてあらわれたのか。この本は、そんな問いに、正面からいどんでいる。こう書けば、史学になじみのない人は、おどろかれようか。えっ、そんな基本的なことも、まだわかっていなかったの、と。
そう、武士の成立史は、ながらく謎だとされてきた。議論のつみかさねはある。さまざまな指摘が、なされてきた。そのぶあつい学説史におそれをなし、追究をひかえる研究者も、少なくない。著者じしん、自分もかつてはそうだったという。しかし、今回は、八世紀から一〇世紀までの史料を読みこみ、この謎に挑戦した。
都の京都からはなれた草深い農村で、在地のボスが各地をたばねるようになる。それが、武士のおこりじゃあないのと、古い史学になじんだ人は思われよう。だが、武士たちは、京都の朝廷にゆかりのある貴種を、頭目にいただいていた。桓武天皇や清和天皇、そして藤原摂関家などの血統を、どこかでひいている。農村成立説では、語りつくせない。
平安時代の天皇は、しばしばたいへんな数の子をなした。あるいは、貴族の名門たちも。しかし、朝廷の役職は、数にかぎりがある。王子たちの全員へ、しかるべきポスト、すなわち収入源をあたえることはできない。その選からもれたプリンスたちのことは、朝廷からきりはなさざるをえなくなる。言葉をかえれば、野へはなつようになってしまう。
そんな王臣家の子孫たちは、気位が高く、手のつけられないやんちゃ者に、よくなった。国のきまりごとなどは、まもらなくてもかまわない。自分たちは、その自由があたえられていると言わんばかりに、ふるまった。また、暇はあり、馬をのりこなし弓矢をあつかう技にも、習熟しやすくなる。
彼らが在地の勢力家と野合をしあったところに、武士の礎はうきあがる。その癒着は地域に、目をおおいたくなるような腐敗をもたらした。そのアナーキーぶりをえがく史眼が、さえわたる。
(週刊ポスト 2019年4.12号より)
初出:P+D MAGAZINE(2019/09/24)