◎編集者コラム◎『突きの鬼一』『突きの鬼一 夕立』鈴木英治
◎編集者コラム◎
『突きの鬼一』『突きの鬼一 夕立』鈴木英治
小学館文庫初登場! 鈴木英治さんの書き下ろし長編時代小説の新シリーズです。しかも、二冊同時刊行とくれば、著者の半端ない意気込みが伝わってきます。著者の代表作は自他ともに認める口入屋シリーズですが、6月に発売された第41作『群青色の波』までの累計部数は260万部を突破しました。その人気シリーズを超えてやろうじゃないか、と大見得を切って挑んだのが、「突きの鬼一」シリーズというわけです。
意気やよし、しかし、知らないよ、そんな大きなこと言って。なんて声が聞こえてきそうですが、担当者は密かに、勝算我にあり、と踏んでいます。さて、その、根拠は──。
舞台は尾張徳川家の北隣に位置する美濃北山三万石という架空の小藩。あるじは百目鬼一郎太二十八歳。九歳のみぎり、江戸下屋敷の中間部屋で博打を見聞して以来二十年、負けたことがない。どういう天の配剤か、賽の目が事前に脳裏に浮かんじゃう。このあたり、よくある向こう受けを狙ったキャラクターといえなくもありませんね。まあまあ、もう少しお付き合いください。
北山藩は特産の寒天が藩の財政を底上げして、実収十万石。だが、年貢は依然として六公四民で、藩は百姓の犠牲の上に胡坐をかいていた。そこで一郎太が百年の計として年貢半減令を打ち出すが、これが大誤算。一郎太は城下外れの賭場で国家老・黒岩監物が放った暗殺隊に襲撃される。藩内一の遣い手にして、突きの鬼一と異名をとる一郎太は二十人以上を斬り捨てて虎口を脱するが、襲撃者の中に年貢半減令に賛同する城代家老・伊吹勘助の倅・進兵衛がいたことに愕然とする。家臣の本音を読み誤った一郎太は藩主の座を降りることを即刻決意、実母桜香院が偏愛する弟・重二郎に後事を託して江戸へ。中山道を江戸に下る途中で、大猪を必殺の突きで倒したかと思えば、愛刀を賭場で取られそうになるやら、痛快な道中がこれまた読ませる。板橋宿の手前で追い剥ぎに襲われていた駒込土物店(青物市場ですね)の差配・槐屋徳兵衛を助けた縁で世話になることに。と、ここまでが一作目。
二作目から鬼一と後を追ってきた忠義の士・神酒藍蔵の二人三脚の江戸暮らしが始まるわけですが、徳兵衛の人物像がまことに秀逸。徳兵衛は草創名主(先祖が家康と共に三河から移住してきた、いわば草分けです)として、町内の揉め事を裁くのが役目ですが、その手連手管に読者諸賢は目を瞠ることでしょう。まさに読んでのお楽しみ。さらに、鬼一襲撃を命じたのは、実は監物ではなかったと判明。これもまた、読んでのお楽しみ。人物の魅力と畳みかけるシーンの連続技、先述の根拠とは、この二要素の出色の出来栄えにあるのです。ということで、是非ともご愛読のほどを。