◎編集者コラム◎ 『絵草紙屋万葉堂 堅香子の花』篠 綾子
◎編集者コラム◎
『絵草紙屋万葉堂 堅香子の花』篠 綾子
先頃、篠綾子さんの『青山に在り』が日本歴史時代作家協会賞(作品賞)を受賞されました。時代小説界にあって、篠さんはますます注目度が増している書き手となっています。
さて4作目となる本シリーズ。長年姿をくらましていた駒三が万葉堂に戻ってきます。そして、さつきや喜重郎に自分がかつて「蛇の目」の一味であったと認め、蛇の目が平野屋から盗み出した書物に「危ない本」があったのではと気づき、その正体を明かそうと万葉堂に入って探っていたのでした。駒三は、蛇の目の仲間の八岐大蛇や頭である巳之助の行方を追うのですが……。
一方、親友であるおよねの母親お千からは、人魚の肉を入手して体調の優れないおよねに食べさせたいという依頼が来ました。「人魚の肉を食べたという老女が江戸に現れ、この先の世を予言する」。こんな読売が話題になっていたのです。老女に会えるかも知れないと思って向かった先にいたのは、既知であるお侍でした。そこで、「危ない本」についての情報が伝えられます。それは以前、田沼意次の屋敷で見た本の書き込みと似た書き込みが記されていました。
──十衛至助有因河也河謀星策兵常被
──若兵乃竜身事白者白常七失十衛恐難
いずれの書き込みもその場で見せられただけでしたが、再現できたのは一度覚えた文字を過ちなく再現できるという、さつきの驚くべき特技があったからでした。ふたつの書き込みに何かが読み込まれていると考えたさつきと喜重郎は、それを読み解きます。そこには、さつきの人生を翻弄したある陰謀が記されていました。
さらに、喜重郎とおよねにも転機が訪れ……。
重大な陰謀が明らかにされ、その後のさつきたちも描かれています。さつきが、読売の作り手として自分の信じる道を生きていこうとする決意が感じられるラストとなりました。
本シリーズは、今作で堂々完結となりました。読み続けて下さった読者の皆様には、厚く御礼を申し上げます。