【先取りベストセラーランキング】愛する夫の顔面に5発の弾丸を撃ち込んだ女性画家のミステリー ブックレビューfromNY<第50回>
NY在住のジャーナリスト・佐藤則男が紹介する、アメリカのベストセラー事情と、注目の一作をピックアップするコラムの50回目。今回は、夫殺害の容疑で逮捕され、事件後、誰とも口を利くことができなくなっていた女性画家と、彼女を治療することに情熱を注ぐ犯罪心理療法士の物語を紹介します。
<第50回>愛する夫の顔面に銃弾を撃ち込み、口を利かなくなった女性画家の謎
The Silent Patient/ by Alex Michaelides
Celadon, 2019.336ページ. US$26.99
今月のベストセラー事情
2020年最初の「ニューヨーク・タイムズ ベストセラー事情」は、ハードカバー・フィクション部門のトップ10 (2020 年1月5日の週) [1]を紹介する。
1.Where the Crawdads Sing
By Delia Owens
Putnam
1969年、ノースカロライナ州の静かな町でチェース・アンドリュースの死体が発見された時、地元の人たちは、湿地帯で一人暮らしをし、「湿地帯の娘」と呼ばれていた若い女性を犯人だと思った。
(ベストセラー68週目)
2.The Guardians
By John Grisham
Doubleday
フロリダ北部の小さな町のオフィスで若い弁護士が銃殺された。犯人は何の痕跡も残さず現場を立ち去り、目撃者もいなかった。しばらくして、警察はクィンシー・ミラーという名の若い黒人の男を逮捕した。クィンシーは無実を訴えたにもかかわらず、終身刑の判決を受けた。22年後、彼は獄中から「ガーディアン」という名の小さなグループに無実を訴える手紙を書いた。グループの創設者の弁護士であり牧師のカレン・ポストは、この件を調査するためにフロリダに向かった……。
(ベストセラー5週目)
3.The Institute
By Stephen King
Scribner
深夜、ミネアポリス郊外の閑静な住宅地で殺人事件が起きた。侵入者は両親を殺し、眠っている息子のルークを誘拐した。窓のない部屋で目覚めたルークは、次第に自分と同じように特殊な才能を持つ子供たちが、同じ施設の別の部屋に閉じ込められていることに気付いた。この施設では子供たちの才能を搾り取るためにあらゆる手段が用いられ、用済みになった子供たちは姿を消した……。
(ベストセラー15週目)
4.Criss Cross
By James Patterson
Little, Brown
殺人犯マイケル・エジャートンの死刑に立ち会ったアレックス・クロスは、これで長い間彼を悩ませてきた事件にケリをつけることができたと思った。しかし、再び「M」の印を付けられた死体が発見され、クロスは事件が終わっていないことに気付いた。エジャートンの家族は、クロスが無実のマイケルを殺人犯にでっち上げたと批判した……。「アレックス・クロス」シリーズ27作目。
(ベストセラー4週目)
5.Blue Moon
By Lee Child
Delacorte
リーチャーは突然、ウクライナとアルバニアの2つのギャング組織の壮絶な抗争に巻き込まれる羽目に陥った……。「ジャック・リーチャー」シリーズ24作目。
(ベストセラー8週目)
6.A Minute to Midnight
By David Baldacci
Grand Central
FBI捜査官のアトリー・パインは故郷のジョージア州の田舎町に戻ってきて、30年前の双子の姉妹マーシーの誘拐(と、おそらく殺人)事件の再捜査を始めた。しかし、再捜査開始直後から次々と殺人事件が起こり、アトリーはこの連続殺人事件の対応に忙殺された。「アトリー・パイン」シリーズ2作目。
(ベストセラー5週目)
7.The Dutch House
By Ann Patchett
Harper
第二次大戦後、シリル・コンロイは貧しさの中から巨大な富を築き上げ、フィラデルフィアの郊外にオランダ人によって建てられた邸宅を購入した。息子のダニーとその姉のミーヴは成人になった時、生まれ育ったこの家から去った。そして裕福だった姉弟はたちまちにして財産を失った。その後50年間、貧しさの中でお互いを慰めあっていた姉弟は、ついに試練の時を迎えた……。
(ベストセラー13週目)
8.Twisted Twenty-six
By Janet Evanovich
Putnam
賞金稼ぎのステファニー・プラムの恋多き祖母メイザーは、地元のギャングのジミーと結婚し、45分後に未亡人となった。そしてメイザーはジミーの元「ビジネス・パートナー」に付け狙われることになった……。「ステファニー・プラム」シリーズ26作目。
(ベストセラー6週目)
9.The Silent Patient
By Alex Michaelides
Celadon
アリシア・ベレンソンは有名な画家で、今を時めくファッション・フォトグラファーの夫を持ち、ロンドンの一等地に住み、幸せの絶頂のように見えた。しかしある夜、帰宅した夫のガブリエルの顔面に、アリシアは5発の銃弾を撃ち込んだ。そしてその後、彼女は一言も話さなくなった。犯罪心理療法士のセオ・フェイバーはアリシアの治療をすることになった。
(ベストセラー29週目)
10.The Testaments
By Margaret Atwood
Nan A. Talese/Doubleday
1985年に出版された『侍女の物語』(“Handmaid’s Tale”)の時代から約15年後に、3人の女性が証言した「その後」の物語。
(ベストセラー14週目)
ベストセラー68週目になる“Where the Crawdads Sing”は1位に返り咲き、ますます勢い付いている。クリスマス直前の週の売り上げをもとに作られたこのベストセラー・リストは、クリスマス商戦最後の戦いを反映し、2019年に評判になった小説、有名ベストセラー作家の作品や人気シリーズが10位以内にひしめいている。
ところで、米国にGoodreadsという書籍情報専門のウェブサイトがある。登録すると、無料で同社のさまざまな書籍関連情報にアクセスでき、また利用者同士が書籍に関する感想や評価を共有することができる。2007年1月にサービスが始まったこのサイトは、現在9000万人の登録者を持ち、26億冊の本の情報、9000万の書評が掲載されている世界最大の書籍情報サイトと言われている[2]。Goodreadsでは毎年末、登録している読者による投票で、部門ごとに(全部で20部門ある)、その年のGoodreads Choice Awardsを授与している。ちなみに2019年、本コラムで取り上げた作品の中で、小説(フィクション)部門では、マーガレット・アトウッドの“The Testaments”(10月[3])が、歴史小説部門では、テイラー・ジェンキンス・リードの”Daisy Jones and the Six”(4月)が受賞している。賞は逃したものの、本コラムでレビューした多くの本が候補に挙がっていた。歴史小説部門では(得票数の多い順に)、エリザベス・ギルバートの“City of Girls”(7月)、ジョジョ・モイーズの“The Giver of Stars”(12月)、タナハシ・コーツの“The Water Dancer”(11月)、エリン・ヒルダーブランドの“Summer of ‘69”(8月)、マーサ・ホール・ケリーの“Lost Roses”(5月)などだ。またミステリー・スリラー部門では、ルース・ウェアの“The Turn of the Key”(9月)、グリア・ヘンドリックスとサラ・ペッカナン共著の“An Anonymous Girl”(2月)が、ファンタジー部門では、ジュージ・R・R・マーティンの“Fire and Blood”(1月)が候補に挙がっていた。 ちなみに今、ロングセラーで先頭を切っている“Where the Crawdads Sing”は2018年に発売され、2018年の歴史小説部門で候補になっていたが、受賞はしていない。この作品は、発売当初はそれほど話題にならず、ベストセラー・リストに地味に登場し、2019年になってからベストセラー上位にランクされて注目された。
では、2019年、ミステリー・スリラー部門で受賞したのは? というと、今月ベストセラー・リストの9位に返り咲いたアレックス・ミカエリデスの“The Silent Patient”だ。ベストセラー29週目に入っている。しばらくの間10位以内のリストからは外れていたが、しっかり11位から15位の間でリスト入りしていた期間が長かった。というわけで、今月は受賞を祝して改めてこの作品を取り上げたいと思う。
[1] “A version of this list appears in the January 5, 2020 issue of The New York Times Book Review. Rankings reflect sales for the week ending December 21, 2019. Lists are published early online.” (このベストセラー・リストは2020年1月5日のニューヨーク・タイムズ紙ブックレビュー欄に掲載。リストは2019年12月21日で終わる週の売り上げをもとに作成されている。)
[2]https://www.goodreads.com/about/us
[3]カッコ内の月は、このコラムでレビューした月
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