今月のイチオシ本【警察小説】
警察小説だからといって刑事が主役とは限らない。警務課などの事務方や鑑識係など捜査に携わらない警察官もいるし、本書の主人公・城戸護に至っては香港のカメラ屋の店主。警察官ですらない。
ただ四四歳とはいえ、元自衛隊員で傭兵経験もあるタフガイ。本業の傍らボディガードやリスク管理のコンサルタントもやっている。本書も王作民という上海の商社マンの依頼で、福岡で開かれる精密工作機械の見本市に警護役として同行するところから動き出す。
城戸にとっては楽な仕事に見えたが、実は王は対北朝鮮の密輸の黒幕と疑われており、東京の雑誌「週刊新時代」や警視庁公安部に目をつけられていた。福岡に到着早々、城戸は彼らの監視を察知するが、王は自分の口座のある銀行の副支店長が殺された事件で警視庁捜査一課にも狙われていた。捜一の刑事たちは仕事相手との会合場所である割烹の店先で王を任意同行しようとして揉みあいになる。王は何とその場で服毒自殺を試みるが果たせず、病院へ運ばれる。警察の手から逃れた城戸は王の入院先に潜入するが、そこで王は秘書の陳に射殺され、陳自身も自殺する事態に。かくして城戸は一連の事件の容疑者として追われる身に。
城戸はただの元自衛隊員ではなく、陸上自衛隊空挺部隊出身でレンジャーの教官を務め、「特殊作戦群」に抜擢されていた。いわば選りすぐりの戦士。王の一件では、警視庁の高官・高村が自ら命令を下す異例の事態になっており、何故か城戸を目の敵にしているようだった。警視庁公安部を束ねる志水達也警部は高村の介入に疑念を募らせていくが……。
物語は元自衛隊員と警視庁公安部、そして城戸に協力する「週刊新時代」の面々が三つ巴になって進行する。ポイントは公安警察が密かに開発していた通信傍受システムで城戸を捕らえようとすること。本書での警察は主人公の敵役ともいえようが、こういう警察ものもあっていい。
『ガラパゴス』等、正統的社会派ミステリーの旗手として知られる著者だが、本書は国防をテーマにアクションたっぷりに描かれた捜査活劇だ。