今月のイチオシ本【ノンフィクション】

『哲学と宗教全史』
出口治明

ダイヤモンド社 本体2400円+税

 現代は格差社会だという。収入格差、地域格差などさまざま叫ばれているが、知識の格差も大きな問題ではないかと私は思っている。グローバル社会といわれて久しく、世界的に資本や人材、情報がボーダレスでやり取りされる現在、最前線で働く人たちは歴史や経済、哲学などの最低限の教養が必要だ、と実感しているのではないだろうか。

 出口治明は60歳でネットを使った生命保険会社を設立し、社長、会長を10年務めたのちに、国際公募によって立命館アジア太平洋大学(APU)の学長となった。歴史に造詣が深く、京都大学で世界史の講義を行っていたこともある。

 かつて習った世界史は地域ごとの縦割りだった。出口はこれを年代ごとに地域と地域の関係性や自然環境なども加味して俯瞰し、史実や事件の因果関係に着目した。ビジネスマン向けに書かれた『仕事に効く教養としての「世界史」』(全2巻、祥伝社)は非常にわかりやすく、世界史の本としては異例のヒットとなった。

『哲学と宗教全史』は460ページを超える大著である。多くの日本人は「哲学」や「宗教」が苦手なのではないだろうか。特に宗教に関しては、非常にデリケートな話題として神経を使う。だがキリスト教やイスラーム教だけでなく、さまざまな宗教問題が勃発しているなかで、留学やビジネスを行う人にとって、いまや避けて通れる問題ではない。

 遥か昔から人間はふたつの大きな問いを抱えていたと著者は語り始める。

・世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?

・人間はどこからきてどこへ行くのか、何のために生きているのか?

 世界最古の宗教、ゾロアスター教がユダヤ教、キリスト教、イスラーム教に与えた影響や、ソクラテス、プラトンなどの教え、孔子、墨子、ブッダの思索など、それぞれを関連付けて説いていくため、知識が蓄積され体系化されていく経験はちょっとした快感を覚えるだろう。

 本書は入門書として活用したい。通読したあと、テロや紛争の理解の手掛かりとして手に届くところに置いてほしい。

(文/東 えりか)
〈「STORY BOX」2019年12月号掲載〉
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