今月のイチオシ本 【ミステリー小説】

『死刑評決』
大門剛明

講談社文庫 本体700円+税

 チャリティコンサートが行なわれていた高松駅前の広場で、紙袋に入れられた手製の爆弾が爆発。十二歳の少年が死亡し、十数名の重軽傷者を出す大惨事となった。警察は防犯カメラの映像を手掛かりに、当時十九歳の小杉優心を逮捕。その後、裁判員裁判で死刑が確定する……。

 大門剛明『死刑評決』は、二〇一九年一月に刊行された『完全無罪』(講談社文庫)に続く〈弁護士・松岡千紗〉シリーズの第二弾である(この巻から読んでも問題はない)。前作では、自身も監禁された少女のひとりだった二十一年前の誘拐殺人事件と向き合い、容疑者の冤罪再審裁判を担当する苦しい戦いに挑んだが、本作はそれから半年後の物語だ。

 千紗は以前所属していた大手法律事務所の敏腕弁護士から、小杉優心の死刑判決に疑義を唱える女子高生──伊東文乃の依頼を任される。小杉と同じ児童養護施設で過ごした彼女の話を聞き、動き出した千紗だったが、量刑不服として再審請求を進める矢先、小杉の死刑が執行されてしまう。するとその直後に殺人事件が発生し、かつて裁判員裁判で小杉の死刑を支持した人物が容疑者となるのだが、真犯人の存在が読者に隠されることはない。それが誰で、なぜ殺人を犯し、どのように偽装したのか。そして千紗が真犯人に少しずつ迫っていく過程が描かれ、なるほど、今回は「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のような倒叙形式のミステリになっているのか──と読み進めていくと、第四章「業火」で驚きの展開が待ち構えている(筆者は仰天のあまり声を上げて椅子から立ち上がってしまった)。

 衝撃の一行によって物語が一変する見事な仕掛けと、読後「公正な裁き」と「贖罪」について深く考えずにはいられなくなる迫真の法廷劇。「文庫書下ろし」作品だからと侮るなかれ。死刑制度と冤罪に深く踏み込んだデビュー作『雪冤』(横溝正史ミステリ大賞受賞/二〇〇九年)をはじめ、質の高いリーガルミステリを数多く紡いできた著者の作品のなかでもトップクラスの傑作である。今後著者の代表作は〈弁護士・松岡千紗〉シリーズになるのかもしれない。

(文/宇田川拓也)
〈「STORY BOX」2020年3月号掲載〉
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