今月のイチオシ本【エンタメ小説】
本書は第十一回小説宝石新人賞を受賞した本山聖子さんのデビュー作で、若年性乳がんを患う、百花、菜都、柚子、三人三様のドラマを描いた連作短編集だ。
夫も自分も子ども好きだったため、半年前に結婚した直後から妊活に励んでいる百花は、ある日、夫の涼太が彼女の胸のしこりに気がついたことで、念のため受診したところ、乳がんが発覚する。治療中は出産できないため、一日でも早く子どもを産みたかった百花は、治療と妊活の板挟みになる。
福岡で八十年以上続く造り酒屋の長男と結婚した菜都は、長女を四度目の人工授精を経て出産。二人目を妊活中に、乳がんが発覚する。ただでさえ、プライドだけは高い姑、何事につけ姑の顔色をうかがうマザコンぎみの夫。病が発覚した菜都を労るどころか、姑が口にした言葉は「貧乏くじひいちゃった」だった。その言葉を耳にしてしまった菜都は……。
東京の弁護士事務所に勤務する柚子は、三年前に乳がんで左乳房全摘手術を受け、術後三年目の検診をクリアしたところ。この先もがんが再発しないという保証はないものの、そうやって、こつこつと日々を重ねることへの喜びを噛み締めている。とはいえ、がんが発覚した矢先、婚約者が去っていったことは、柚子の心の深い部分に傷を残している。
背景も、その身に負うものもそれぞれに異なる三人が、自身の闘病ブログを通じて親しくなり、三人で温泉に行った顛末が描かれる第四章が、特にいい。当事者でなければわからない苦しみや葛藤を、受け止め合い、励まし合い、そして笑い合う三人。そこに行き着くまでの、彼女たちが流した涙がどれほどのものなのか。けれど、その涙こそが、彼女たちのしなやかなたくましさを支えているのだ、ということが、よくわかる。
著者の本山さんは、ご自身が二十七歳で若年性乳がんを患われた方でもある。乳がんの早期発見、治療の重要さはもちろん、若年性ならではの苦悩が、読み手にリアルに伝わってくる。本書は、タイトルどおり、今現在、乳がんと戦っている方たちへの熱い、熱いエールである。