今月のイチオシ本【エンタメ小説】

『料理なんて愛なんて』
佐々木 愛

料理なんて愛なんて

文藝春秋

「料理が好きな人」

 三年前の春に出会った時、好きな人のタイプを尋ねた優花に、真島は即答した。以来、ことあるごとに同じ質問をするものの、「料理が上手な人」「料理好きな人」と、言い回しは変わっても、答えはいつも同じ。

 この真島の言葉が、優花にとって呪縛となる。何故なら優花は料理が嫌いで苦手、だからだ。

 それでもなんとか三年越しの片思いを実らせ、クリスマスから真島と付き合いはじめた優花が、初めて二人で迎えるバレンタインのために、手作りチョコレートを作ろうとする場面から物語は始まる。敢えなくというかやっぱりというか、チョコ作りは失敗に終わる。気持ちを切り替え、デパートで買った高級チョコを渡そうと真島と待ち合わせた優花に告げられたのは、別れの言葉だった。以前から真島が想いを寄せていた、料理教室で講師をしている沙代里から付き合ってもいいかな、と言われ、さっき会った時、手作りチョコを渡されたのだ、と。浮かれポンチと化した真島は、優花のチョコを受け取らずに去って行った。

 もうね、この真島、本当いけすかないやつなんですよ。でも、そんな真島のいけすかなさを十二分に知っていながらも、どうしても嫌いになれない優花。彼女なりに料理を好きになる努力を続けてみるのだが……。

 もうさー、そんな男やめなよ、目の前にあなたを好きと言ってくれるもっといい男がいるじゃない、と思いつつ読んでいるうちに、だんだんと優花の不器用な真面目さが愛おしくなってくる。そうだよね、人を好きになるってそういうとこあるよね、と。同時に「料理は愛情だ」という言葉の持つ毒にも気付かされる。

 優花の同僚で、一年後輩の坂間のキャラが抜群にいい。自分の家族を含めて他人が苦手な彼は言う。嫌いなことや苦手なことを「好きになりたい」と言い続けるのは「好きになりたい詐欺」じゃないか、と。この坂間の言葉、深くないですか? 「普通」や「当然」を疑うことの大切さを教えてれくれる一冊だ。

(文/吉田伸子)
〈「STORY BOX」2021年4月号掲載〉

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