今月のイチオシ本【歴史・時代小説】

『妖しい刀剣 鬼を斬る刀』
東郷 隆

妖しい刀剣 鬼を斬る刀

出版芸術社 本体1600円+税

 博覧強記で時代考証にも定評がある東郷隆は、文物の故事来歴を掘り下げる江戸時代の考証趣味に通じる『戦国名刀伝』『本朝甲冑奇談』などを発表している。

 人気ゲーム『刀剣乱舞』などの影響もあり、若い女性のファンも多くなった刀剣にまつわる怪談奇譚をまとめた本書は、『妖しい戦国』の続編で、『戦国名刀伝』の姉妹編ともいえる作品である。

 古くから刀は、邪を払う力があると信じられていた。そのため鬼退治に使われたとされる刀は多く、源頼光に仕えた渡辺綱が、鬼を斬ったとされる「鬼切」は特に名高い。肝試しに羅城門に行った綱が、鬼に襲われ腕を切断した話は、能の「羅生門」の題材にもなったが、この他にも、頼光の使いで洛外に行った帰り道、綱が女に化けた鬼に襲われ腕を斬ったとの別のバージョンもあるという。

 重要美術品の「にっかり」は、戦国時代の武士・中島修理太夫が、にっかり笑う女の化物を斬ると姿が消え、翌朝、現場に戻ると古い石灯籠が切断されていた怪談が銘の由来になっている。この話はよく知られているが、著者は同じ怪異ながら刀が異なる伝承が信濃にあることを指摘、さらに「にっかり」も、修理太夫の石灯籠斬りだけでなく、石塔を斬る、鬼火の中の女の首を斬るなど幾つものバリエーションがあるとしているので、刀剣好きほど驚きが大きいのではないか。

 幕末に「虎狼痢」(コレラ)を寄せ付けなかったという脇差「おものがわ」、前田利家の娘・豪姫の病気平癒に用いられた「大典太」などの物語は、新型コロナで社会が閉塞感に覆われている状況で読むと、圧倒的な生々しさがある。

 著者は、名刀の妖しい話だけでなく、「藤六国綱」が、鎌倉時代の北条得宗家を倒した新田義貞、義貞を討った斯波高経から足利尊氏、尊氏の子孫の義昭から織田信長へと受け継がれ、徳川家を経て明治時代に皇室の所収になったなど、名刀が現代まで伝わったプロセスも丹念に追っている。この壮大な流れに触れると、日本の歴史と文化が単なる事実の羅列ではなく、現代を形作っている身近な存在として感じられるのではないか。

(文/末國善己)
〈「STORY BOX」2021年1月号掲載〉

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