今月のイチオシ本【ノンフィクション】

『医療現場は地獄の戦場だった!』
大内 啓

今月のイチオシ本【ノンフィクション】

ビジネス社

 著者は米マサチューセッツ州ボストンにあるハーバード大学医学部の助教授で終末期医療の研究者である。同時に内科と救急科両方の専門資格医でもあり、系列病院「ブリガム・アンド・ウィメンズ病院」の救急部に勤務している。

 2020年3月「研究はストップし100パーセント臨床に入れ」と指令が出る。本書はそれからの2か月、大内医師が経験した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現場で命をかけて救急患者を診た記録である。

 マサチューセッツ州で最初に患者が報告されたのは2月1日。だが2月下旬にはイタリア人の陽性者からの大規模クラスターが発生し、いっきに自粛ムードに突入する。3月上旬、この州の主になる11の病院が、事実上コロナ以外の病気は一切診ないとアナウンスした。入院患者のほとんどが退院させられ、救急医以外の医師は担当科のオンライン診療に当たるか、救急か集中治療の医師のヘルプに入るか、自宅待機となる。

 病院の外にテントが張られPCR検査が行われ始める。陽性者は「自宅に2週間閉じこもり、ベッドからトイレまで歩けなくなったら病院に来い」と指示された。

 だが州内で3月10日に647人だった感染者は結果的に4月10日には45万6828人にまで膨れ上がってしまう。

 アメリカの救急科はいつ何時でも救急車をすべて受け入れる。普通、瀕死の患者は酸素マスクなどで酸素飽和度を上げると状態が良くなるが、コロナ患者の場合、その酸素飽和度が上がらない。

 患者の激増に医療現場は疲弊していく。院内感染で医師が死ぬ。モンスターペイシェントに悩まされ、人種格差を目の当たりにする。

 後半では、著者がアメリカでどのように医師になったのかが語られる。日本と違い、大学卒業後に医師という職業を目指すアメリカのシステムは日本でも導入すべきではないかと思う。

 日本でも医療崩壊が懸念されている。ワクチン接種でこの流行も鎮静化してくれるだろうか。アメリカの医療現場のリアルに背筋が凍った。

(文/東 えりか)
〈「STORY BOX」2021年2月号掲載〉

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