今月のイチオシ本 警察小説 香山二三郎

『警視庁53教場』
吉川英梨
角川文庫

 今いちばん乗ってる警察小説作家は誰かと訊かれれば、吉川英梨と答える。

 吉川は警察もの以外の作品も発表しているので警察小説専門作家のようなレッテルを貼ってはいけないが、「女性秘匿捜査官・原麻希」シリーズを皮切りに「新東京水上警察」シリーズ、「十三階の女」シリーズ等、続々と新シリーズを開拓しつつあるその活躍はまさに破竹の勢いという言葉がピッタリ。

 しかもシリーズごとに警察ジャンルが異なるというアグレッシヴさで、それは「警察学校小説シリーズ始動!!」とうたわれた本書も例外ではない。

 東京・府中署の瀬山綾乃巡査部長は警視庁警務部主催の婚活パーティで、警察組織の花形、警視庁捜査一課の警部補・五味京介と知り合う。端整な二枚目ながら血のつながらない娘がおり、自力で相手を口説くこともできない五味に綾乃は幻滅するが、そんなとき、府中署管内でホトケが上がったという知らせが。

 現場は警視庁警察学校の近所の廃墟団地。そこで首吊り死体で発見された守村聡は警察学校の教官だった。駆けつけた同僚の高杉哲也助教官によれば、いつ首を括ってもおかしくない精神状態だったというが、そこへ現れた守村の妻は、夫は今朝普通に出ていった、自殺のはずはない、誰かに殺されたのだと主張する。

 翌日、綾乃は五味のもとへ相談に訪れる。奇しくも守村と高杉は五味と警察学校の同期だった。五味は守村の亡くなる前後の状況や現場写真をチェックし、首を吊ったロープの結び目が船乗りの使うもやい結びであることや脚立に残されたゲソ痕に不審を覚えるが……。

 そこから物語は警察学校時代の五味たちの行状と現在の捜査過程とが交互に描かれていく。やがて守村の死は、五味たちの同期生で在学中に自殺した巡査と関わりがあるらしいことがわかるが、捜査の行方もさることながら、何より正義漢で有能な五味の紆余曲折や高杉たちとの絆を通じて、警察官のあるべき姿が模索されていく点にご注目。そこに五味の切ない恋愛劇も絡んでくる辺りはこの著者ならではの趣向というべきか。

(文/香山二三郎)
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