今月のイチオシ本 ミステリー小説 宇田川拓也
昭和二十年。美作宗八郎は東京の生家を遠く離れ、片田舎にある名門中等学校──白霧学舎に編入することに。するとそこで、寮長を務める一学年上の滝幸治、美作と同学年同室の斎藤順平のふたりが主宰し、・教授・なる謎の生徒を特別名誉部員に迎えた「探偵小説倶楽部」への勧誘を受ける。話によれば彼らは、おおよそ五年前に端を発する未解決連続殺人の謎に取り組んでいるというのだが……。
二〇一三年発表の『伊藤博文邸の怪事件』に続く、〈名探偵月輪〉シリーズ第二弾『黒龍荘の惨劇』(第十五回本格ミステリ大賞候補、第六十八回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門候補)で大きな注目を集め、いまや本格推理ファンにとって目の離せない重要作家となった、岡田秀文。最新作『白霧学舎 探偵小説倶楽部』は、著者初となる戦時下を舞台にした長編青春ミステリーだ。
酒屋の次男、床屋の店主、この地方随一の名家の長男、国民学校の教師という、一見接点のない被害者たち。墜落したB24爆撃機と行方がわからないひとりの米兵。鐘撞塔の下で発見された遺体と血の付着した斧……。こうした謎の数々を解き明かすべく、女生徒の早坂薫を加えた「探偵小説倶楽部」の面々が力を合わせて調査に乗り出すわけだが、よくある学園青春ものと一線を画しているのは、やはり「戦争」が色濃く影を落としている点だ(同じく戦時下の青春を描いた、一九七〇年代の某賞受賞作を想起する向きもあるかもしれない)。
「昭和二十年」という時代設定から察せられるとおり、謎解きに奔走する若者たちは「終戦」という大転換を経て真相へと迫ることになる。終盤、ついに明らかになる事件の全容は、それまでの価値観や倫理が一変してしまっているがゆえに痛ましさがいっそう際立ち、強いやるせなさを覚えずにはいられない。また、ある登場人物の末路から、戦争によって貴重な才気の芽がどれだけ潰されてしまったかを思うと、暗澹たる気持ちになる。
最後に若き探偵たちが得た、切なくも眩しいかけがえのないものがなにかを、ぜひとも見届けていただきたい。