『死んでいない者』

【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY  】

話題の著者に訊きました!

滝口悠生さん

YUSHO TAKIGUCHI

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1982年生まれ。2011年「楽器」で新潮新人賞受賞。’14年『寝相』で野間文芸新人賞候補。’15年『愛と人生』で三島由紀夫賞候補、野間文芸新人賞受賞。同年「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」で芥川賞候補。高校時代は野球部に所属。「最後は1番セカンドでした」。

読み終わった後、

使う言葉が変わる

ような小説を

ぼくは書いてみたい

 

親類たちが集まれば、

死者を悼む様もどこか

明るい。声や記憶が

重なり溶けていく

芥川賞受賞作!

『死んでいない者』

死んでいない者

文藝春秋

1404円

30人ほどの親類たちが、大往生を遂げた故人の通夜に集まった一夜を掬い取った第154回芥川賞受賞作。顔の部分部分がどこか似ている老若男女がそれぞれの距離感で故人を想い、家族の記憶を手繰っていく。「この作品は仕事を辞める前に書いた最後の小説で、引き継ぎなどでかなり忙しい中、書いていました(笑い)」。

 

芥川賞を受賞した『死んでいない者』は、通夜の夜に集まった親戚一同の物語だ。「物語」と呼ぶほど特別な何かが起こるわけでも、刺激的な言い回しがあるわけでもない。が、ちょっとしたシーンや会話がいつまでも心に残る不思議な作品だ。「全体でどうかということはぼくにとってさほど重要ではなくて、読者がよかったと思える部分が、いろんなところに散らばっている方がいいと思っているんです。部分部分が最後、ひとつに収斂していくのではなく、途中は途中のままでいい。書いているときに、こう書けば格好よく決まるなと思うときもあるのですが、すでにある感情に小説を流し込むことになるのでしたくない。それよりも、よくわからないけど何かしらではある、みたいな感情や雰囲気がぼやーんと残る方がいいな、と」

どこか冷めたような、突き放したような物の見方は、高校時代からのもの。所沢高校在学中、一部の教師や生徒が国旗掲揚・国歌斉唱に反対し、世間でも話題になった。

「ぼくはどっちでもよかった。どうでもいいということでなく、それをやるかやらないかの議論に終始してしまうのは退屈だった。ちょっと真ん中の丸がずれてる国旗を掲揚したり、わざと音程を外して君が代を歌ったりしたら、それはどうなのかなとか、誰か気がつくのかなとか、ひねくれた考え方をしていましたね。単純な二項対立に落とし込むのではなく、いろんな考え方のバリエーションがあっていいと思ったんです」

高校卒業後は、5年間のフリーター生活を経て、’06年に早稲田大学第二文学部に入学。約2年半で中退し、それからは小さな輸入食品会社で働きながら、執筆を続けた。そして’11年、「楽器」で新潮新人賞小説部門賞を受賞し、デビューを飾る。「作家になろうという意識は、高校を卒業し、フリーターをしているときにじわじわと大きくなって、大学入学につながった。でも、これまでの人生が小説を書くための準備期間だった、という言い方は嘘くさい気がしますね。もっとのん気に過ごしていたので、作家にならずに、ずっとフリーターをしていたかもしれないですし。ただ、周りの友人からは、おまえは昔から謎の自信があったとよく言われました(笑い)」

昨年10月に会社を辞め、筆一本で生活していく覚悟を決めた。言葉の役割が「整理」と「破壊」だとするならば、後者を目指したいと話す。

「これまで使ってきた言葉を一度解体し、また、わからないようにさせることは活字の芸術にしかできないことだと思う。言葉にしにくい感情を言葉にしていきたい。読み終わった後、使う言葉が変わるような小説を書いてみたいですね。それが世界観が変わる、ということですから」

 

素顔を知るための

SEVEN’S

Question+1

Q1 最近読んで面白かった本は?

『圏外編集者』(都築響一)。

Q2 好きなテレビ番組は?

家にテレビがありません。

Q3 最近見て面白かった映画は?

『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』と『ヤクザと憲法』。月にならしたら5~6本は見てます。

Q4 趣味は?

散歩。

Q5 1日のスケジュールは?

朝6~7時に起きて、昼間は家事をしつつ執筆したり読書をしたり。夜は喫茶店に行って仕事をすることが多いです。

Q6 前回、芥川賞を受賞した羽田圭介さんのようにテレビ出演は?

ぼくは別の路線で行きたいと思います(笑い)。

Q7 最近気になるニュースは?

清原問題はショックでした。びっくり……はしなかったですが。

Q+1 得意な料理は?

カレーライス。スパイスをたくさん入れて、ルーを使わないで作っていたんですが、妻に不評で(笑い)。最近はルーを投入して、ストイックにはしません。

(取材・文/中村計)

(撮影/矢口和也)

(女性セブン2016年3月10日号より)

 

 

 

 

 

 

初出:P+D MAGAZINE(2016/03/04)

【井伏鱒二、太宰治、小林多喜二…】東京、中央線沿線に住んだ作家たち。
『6月31日の同窓会』