【ニートの読書生活】高等遊民が職に就かずに読みたい20冊 |
ニートは現代の高等遊民!? 人気ブログ「一橋を出てニートになりました」の筆者が選ぶ、”人生の夏休み”を満喫するための読書リスト!ダメ人間たちを描いた小説から、ブラック社会への告発まで、選りすぐりの20冊です。
「歌は世につれ世は歌につれ」……読書スタイルもまた時代にあわせてめまぐるしく変化していきます。 しかし、インターネット上の読書まとめが実用書・ビジネス書の紹介に埋め尽くされてしまっては、どうにも面白くありません。 かつて、教養はあるが職はない「高等遊民」と呼ばれる人たちが、資本主義社会の片隅で日本近代文学を盛り上げていたように、ビジネス書に骨抜きにされた現代人に代わって、骨太の読書案内を届けられる人はいないだろうか? そこで今回は、人気ブログ、「一橋を出てニートになりました」を書いているニャートさんに、「職に就かずに読みたい20冊」を厳選していただきました!独自に編集した読書グラフとともにお楽しみください!
[以下、ニャートさん寄稿文]
私は、過労で退職後、ニートになった経験をもとに、ブログ「一橋を出てニートになりました」を書いているニャートという者である。 さて、「ニート期間」=「人生の空白期間」と思いがちだが、それは過ごし方次第だ。 私がブログを書けるのも、ニート期間における人生への葛藤が沈殿し、問題意識へと熟成されたおかげである。 せっかくの「人生の夏休み」、普段は読まないジャンルの本をあえて読むことで、見識を広めたい。 そこで今日は、(元)ニートがお薦めする本を、「ダメ人間の作家や主人公と自分を比べる」「社会の中でニートの自分を相対化する」という2つの視点から紹介したい。
ダメ人間の作家や主人公と自分を比べてみる13冊
1:太宰治「人間失格」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/400310904X
太宰は、実家は地元の名士で裕福、東大に進学できる頭脳を持つイケメン、文才があり女性にモテた。 しかし、単独の自殺未遂を2度、心中を3度。薬物中毒になり、精神病院に入院もしている。 もし、太宰が今生きていて、ブロガーだったらどうだったろう。 心中前に「鎌倉なう。今から入水」とツイートしたり、「芥川賞落ちた日本死ね!」とブログを書いて炎上したり、審査員の川端康成にtwitterで「激おこ。刺す」とケンカを売ったりしていたかもしれない。 そう想像すると、常に自分の痛さを気にしている私は、慰められる。 「人間失格」でも、身元保証人が「実家が生活費を出すから学校に入学しろ」と率直に伝えなかったから、自分の運命が変わったという記述がある。 実際その通りでも、凡人は自制して言わない。痛いから。 自らの痛さとダメ人間ぶりをエンタメとしてさらけ出した「人間失格」は、安心して共感できる。
2:「不良少年とキリスト」坂口安吾
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4802026315
太宰の自殺時に、同じ無頼派の坂口安吾から捧げられた文章。 安吾は、太宰はコメディアンになりきれなかったと言う。 優れた小説を書くためには、自らを客観的に見て、コメディアンに徹することが必要だ。 安吾は、太宰は生きてさえいれば、いつか本当のコメディアンになれたのに、と悔しがる。 生き抜いて、戦って、勝とうと思わないことを勧めるくだりは、死にたいと思うニートにも有効だ。
3:「啄木・ローマ字日記」石川啄木
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4003105443
石川啄木は、貧困の歌を多く詠み、肺結核のため26歳で夭折、死後に評価されたため、悲劇の歌人と思われている。 だが、実はその貧困は、自らの浪費と借金が原因だった。 この本は、啄木が23歳頃に、妻に読まれないようにローマ字で書いた日記だ。 新聞社に入社して3ヶ月目で2週間連続ズル休みし、給料を前借りし、その金で女を買う。 赤裸々な性描写もある(拳をどこそこに入れたり……)。 この日記以外にも、自らの結婚式をすっぽかして旅館に滞在し、
4:「石川くん」枡野浩一
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/408746153X
そんな啄木の短歌を、現代の歌人・枡野氏が、今の言葉に訳した本。 啄木の短歌は、当時では最先端の手法なのだが、今読むとその新しさはピンとこない。 だが、この本を読むと、短歌は難しいものではなく、ニートもtwitterで呟いてみたくなる。 また、啄木のダメ人間ぶりにツッコミはするが、けなすことはなく、愛すべき点もあるとしているのもいい。 ニートにもこんな友達がほしい。
5:渡辺淳一「遠き落日」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4062776952
野口英世は、ノーベル賞候補にもなった細菌学者で、千円札に載るほどの国民的英雄である。 この本は、そんな野口英世のダメ人間ぶりを、遠慮なく暴露している。 手の障害をネタに借金を繰り返し(金は遊びに使う)、ペスト調査団の支度金まで遊郭で使ってしまう。 また、渡米費を作るために女学生と婚約し、持参金を一晩の豪遊で使い果たす。結局、結婚はせず、持参金は友人に返させる。 しかも、アメリカで学歴を詐称している。東京医科大学卒の医学博士と名乗っていたが、どちらも嘘である。 でも、天才。凡人とは別次元のダメ人間を眺めたい人向け。
6:ドフトエフスキー「地下室の手記」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4102010092
40歳の主人公は、20年間ずっと地下室で暮らしている。つまり、ロシア版引きこもりだ。 飲み屋で通り道を塞いでいて、将校に移動させられたことを何年も恨み、ストーキングして個人情報を集めたり、彼とすれ違う時に道を譲らない度胸をつけるため、借金してコートの襟を買ったりする。 自意識過剰だと、当の相手は覚えてもいない些細な事を、自分だけが何年も忘れられなかったりする。 なぜ自分は何者にもなれなかったのかと問い詰め、それは病的なまでに自意識が肥大しているからだと悟るように、全編にわたる自意識との闘いが他人事とは思えない。
7:芥川龍之介「鼻」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101025010
あごより長い鼻を持つ坊さんが、治療して普通の鼻になったのに、元の鼻がよかったと思う話。 その理由は、以前は長い鼻に同情していた周囲が、克服したら「うまくやりやがって」と敵意を抱くようになったから。 周囲の反応やそれに対する自分の気持ちで、幸福が不幸に思えてくる。 「不幸」がアイディンティティになっている人にとっては、考えさせられる話である。
8:色川武大「怪しい来客簿」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4167296047
戦後間もない時期の、一風変わった人たちを描いたエッセイ集。 負けず嫌いですぐケンカになるため、仕事を干される編集者が出てくる。 妻子を火事で失い、仕事は干される、小説は書けない、束の間の恋をしたらすい臓ガンと判明する。 彼の人生とは何だったのか。やりたいことは、彼の固い殻が邪魔して陽の目を見ずに終わってしまう。 冷静な筆致で、淡々と描かれる(でも愛情はある)ダメ人間を読むことで、自分を相対化したい人向け。
9:中島らも「今夜、すべてのバーで」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4061856278
アルコール中毒で入院した35歳の主人公の、自叙伝的な治療記録。 アル中になるのは、酒を「この世からどこか別の所へ運ばれていくためのツール」として利用する人であり、これは他の依存症にも通ずる。 「アル中地獄」という本からの引用も強烈だ。 頭が砕け、歯車つきの脳細胞がこぼれ落ちる。病室の皆で掃き集めるが(周囲はお芝居でつきあう)、一番大事な右後頭部の細胞がない……。 何かに依存しがちな人が、自らを客観的に見つめ直す用に。
10:町田康「夫婦茶碗」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101319316
落語調のリズミカルな文体で展開される、無職なダメ人間夫の妄想記録。 茶碗ウォッシャー(茶碗洗い)の仕事を始めようと、住宅街で「ちゃわおっしゃーっ」と絶叫する。 ペンキ塗りの仕事を得たのに、給料で冷蔵庫を買ったら、妻が卵を手前から取らないことで疲労し、仕事に行けなくなる。 儲けるためメルヘン(童話)を書こうとして、妻に「うるおいのある生活」(ダジャレのやり取り)を求めた結果、妻は「永井荷風」と言い捨てて出ていく……。 狂気はあるが、じめじめした自意識の葛藤はないので、純粋な楽しみ用に。
11:西村賢太「小銭をかぞえる」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/416781501X
芥川賞受賞の連絡時に「そろそろ風俗に行こうと思っていた」等の発言、父の犯罪で家庭が崩壊し中卒で肉体労働をした経歴等から、ネットで人気の西村氏。 この本の「焼却炉行き赤ん坊」は、元彼女へのDV、風俗通い、彼女の実家からの300万の借金と、女性が敬遠する描写の連続だ。 さらに怖いのは、そんな主人公相手に、彼女がぬいぐるみを使った家族ごっこを始めることだ。理由も哀しい。 でも、なぜか笑えるところもある。 好みは分かれるが、現代最後の私小説を読みたい人向け。
12:滝本竜彦「超人計画」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4043747039
引きこもり小説「NHKにようこそ!」の2年後、24歳の時に書かれた、真人間になるための体験記。 脳内彼女やエロゲーから離れて、出会い系サイトでリアル彼女を探す。 ハゲる前に剃る。スキンヘッドを晒して、引きこもりの当事者としてNHK番組で「愛が大事」と訴える等々。 2003年当時に流行ったテキストサイト風文体と、自意識との葛藤がマッチしている。 滝本氏も今や37歳で、現在はヒーリング・セッションを提供しているらしい。
13:pha「ニートの歩き方」
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4774152242
日本一有名な、京大卒ニートのpha氏。 私にはニートしか選択肢がなかったのに対し、pha氏は多くの選択肢の中からニートを選んだ。 「だるい。めんどくさい。働きたくない」といった自らの欲求に素直で、かけらも無理せず、自然体で生きている。 ポジティブな生き方(いわば高等遊民)としてニートを選びたい人向け。
社会の中でニートである自分を見つめ直す7冊
ここから、「社会の中でニートの自分を見つめ直す」視点での紹介になる。
14:「深夜特急」沢木耕太郎
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101235058
最近の若い人は、海外に行かないという統計が出ている。 海外を安く長期間旅する「バックパッカー」が流行った時代があった。 1986年に出版されたこの本は、
15:「ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護」池上正樹
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4591136361
40代引きこもりのM君の3年間の軌跡。 池上氏の著書の紹介記事を読んだM君が、新聞社に連絡したことから交流が始まる。 M君は、誰にでも起こりそうな、ちょっとした不運の積み重ねから、引きこもりになった。 人に気を遣いすぎる余り、かえって空回りして疲弊するM君。 引きこもりを脱するため、ボランティアに参加するが、パニックになって目的地に着けなかったり、着いても帰ってしまったり。 だが、周囲に支えられ、ゆっくり前進していく。 M君が持て余す生きづらさに共感しつつ、引きこもり支援の大変さを考えさせられる本。
16:「約束された場所で」村上春樹
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4167502046
ニートだと、宗教に救いを求めたくなることもあるかもしれない。 村上春樹によるオウム真理教の信者のインタビュー集。 障害者の兄の死がきっかけで、世の中への嫌悪に押しつぶされて入信した人がいる。 彼は、オウム内で作業リーダーになる等の人生経験を積んだ結果、世の中への嫌悪が薄まって相対化された。つまり成長したのだ。 彼は宗教に入らなくても生きていけただろう。でも日本には、彼みたいな人の受け入れ口が、宗教以外にないのが問題である。 「向こうに行ってしまった人々」の独白を読むことで、自分の生きづらさを相対化したい人向け。
17:「面白くて眠れなくなる社会学」橋爪大三郎
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4569821553
ニートになると、「なぜ自分は、この社会で生きづらいのか」と考えることも多い。 そうした時に、社会学は考えるヒントになるが、何から勉強すればいいのか分かりづらい。 この本は、中高生向けに書かれているので、一般的な社会学入門本より読みやすい。 私は、社会学の最大のメリットは「世の中の常識を疑うこと」だと思っているが、そうした姿勢も学べる本。
18:「なぜ日本は若者に冷酷なのか:そして下降移動社会が到来する」山田昌弘
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4492223355
「パラサイト・シングル」、「婚活」という言葉を生み出した山田氏。 親と同居して豊かな独身生活を送ったパラサイト・シングルの時代から月日は流れた。 現在は、非正規雇用などによる貧困のため、親と同居しないと生きていけない独身者であふれている。 この本は、なぜそうなったのか、なぜ日本の制度は若者に冷たい構造になっているのかを書いている。
19:「蟹工船」小林多喜二
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4101084017
蟹工船とは、戦前に北洋漁業で使用された大型ボロ船。蟹を取ってすぐ、船内で缶詰に加工できた。 工船は、航海法も労働法規も適用されない、法の真空部分だったため、貧困層の出稼ぎ労働者に対する酷使がまかり通っていた。 資本側は「日本帝国のため」という綺麗ごとの裏で大儲けし、政府も酷使を黙認していた。 どこかで見たことある。そう、偽装請負と同じ構図なのだ。 これは昔話なのか、それとも今に通ずる話なのか。読みながら考えてほしい。
20:「自動車絶望工場」鎌田慧
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4061830961
1973年に出版された、トヨタ自動車の製造ラインで、期間工として働いた潜入ルポ。 コンベア労働は、人間を機械とみなして最大速度で各工程を計算するため、1秒たりとも自由にならない、冷酷なシステムだ。 最速の正解は1つしかなく(標準工程)、裁量も、発展性も、創造性も、成長もない。
労働者は機械ですらない。機械的な動きを強いられた人間であり、機械より安くて、取り換えが簡単な部品であり、もっと簡単にいえば、使い捨てられる電池なのだ。古くなれば充電もきかなくなる。
それでも本採用を夢見て働いた若者は、過酷な仕事で倒れ、期間満了すらできなかった。 しかも、現状はこの「古典」より悪化している。 当時は、期間工といえども直接雇用だった。寮も無料だった。 今は、間に派遣・請負会社が入り、かなりの金額を中抜きしている。 さらに作中には、熟練工が発展性のない労働で「飼い殺し」されるという記述があるが、それはむしろ幸せだった。 現在は、熟練工は必要とされず、もっと若くて安い労働力に替えられるだけだ。 先進国といわれる日本の労働環境は、40年以上前より後退している。この衝撃を感じてほしい。
最後に
以上、ニートをダメ人間の諸先輩や社会の流れの中で相対化するための20選、何か興味を惹かれるものがあれば嬉しい。 普段、ダメ人間を集めた本を読む機会など少ないだろう。 だが、自らをダメ人間と悩む人にとっては、他のダメ人間や社会の有様を様々な角度から眺めることは、慰めにもなり自らの相対化にもつながる。 「苦しんでいるのは自分だけではない」「世の中にはいろんな価値観がある」と思うきっかけになれば幸いである。
初出:P+D MAGAZINE(2016/06/11)