【ネタバレ御免】真夏日に読みたい、結末にゾッとする短編小説8選

猛暑が続く夏の夜、つい手に取りたくなるのは“ゾッとする”ような小説ではないでしょうか。今回は、暑さを吹き飛ばしてくれるような、結末に背筋が凍る珠玉の短編小説を8篇ご紹介します。

連日の猛暑が続く今年の夏。全国各地で気温が40度を超えるなど、例年にないほどの暑さとなっています。
クーラーなしでは寝苦しいような真夏日の夜、つい読みたくなるのは、“ゾッとする”小説ではないでしょうか。

今回は、暑さをひと時忘れさせてくれるような、結末に思わず背筋が凍る珠玉の短編小説をご紹介します。
それぞれの作品のネタバレは、ボタンを押すと読めるようになっています。「あらすじは知りたいけど、作品の結末は知りたくない!」という方は、ボタンを押さずギリギリのところまでをお楽しみください。

1.妻は“人形”なのか? 不信感が招いた思いもよらぬ結末──『優子』

夏と花火と私の死体
出典:http://amzn.asia/8uJq7Db

【あらすじ】
大きな戦争が終わって間もない頃、人形師の父親を結核で亡くした清音。身寄りをなくした清音は、父の友人である政義から鳥越家に住み込みの家政婦として働くよう提案を受ける。働き始めて2週間が経過し、仕事にも慣れた清音は、顔さえ見せない政義の妻、優子の存在がにわかに気になり始め……。

最初にご紹介するのは、乙一のデビュー作『夏と花火と私の死体』に収録されている短編小説、『優子』です。

身寄りを亡くした清音は、自分を気にかけてくれる家の主人・政義に感謝の念を抱く一方、妻である優子に一度も会わせようとしないことに不信感を募らせていきます。ふたりが暮らす部屋に立ち入ることは許されず、食事はいつも扉の前に置くだけ。……優子の存在を疑った清音は、ついふたりの部屋を覗き見ます。

障子の隙間から部屋の一面を飾る大勢の人形の白い顔が見え、その前には布団が敷かれていた。布団はちゃんとふくらんで中に誰か入っているようだった。しかし隙間の前を通る瞬間に清音が見たものは、布団に寝かされてこちらを無表情に見ている人形の姿だった。

「優子はすでに亡くなっており、政義はショックのあまり人形のことを優子だと思い込んでいる」と考えた清音は、彼の目を覚まそうと人形を庭に持ち出し、火を放ちます。

ネタバレ御免! 『優子』のゾッとする結末とは?

清音はなぜこうも、危険な行動に出たのでしょうか。その答えは、彼女が過去に口にしたものにありました。清音は、彼女の前に鳥越家で働いていた家政婦、静枝との会話の中で、「死ぬかと思うほど酷い味の木の実を食べた」ことがあると語ります。実は清音が過去に口にしたのは、“ベラドンナ”という猛毒の木の実でした。

命こそ落とさなかったものの、清音はそれ以来、慢性的な譫妄せんもう状態(※)に陥っていたのです。優子を誤って人形だと見なした清音は、人形を処分することで政義を救おうとしていたのでした。

一方で、政義は実際に、結核を患い病床から動けない妻を甲斐甲斐しく看病していたのでした。同じ病で父を亡くした清音を気遣い、彼は意図的に彼女と優子を遠ざけていたのです。まさか、自分の妻が清音に“人形”と思われているとも知らずに……。

(※妄想と現実の境目がぼやけ、意識が混濁状態にあること)


2.“必要とされない人”がひとりもいない国の秘密 ──『認めている国』

キノの旅
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【あらすじ】
旅人のキノは、1年に1度、国民に「自分にとって必要な人」を投票してもらい、「誰からも選ばれなかった人」を殺す、という恐ろしい行事がある国を訪れ……。

時雨沢恵一しぐさわけいいちによる1話完結型の大人気ファンタジー、『キノの旅』。『認めている国』は、その4巻に収録された短編小説です。

主人公のキノは、訪れたある国で、宿泊したホテルのオーナーの男から明日は“投票祭”だと伝えられます。投票祭というのは、1年に1度、全国民に「自分にとって必要な人」を投票してもらい、「誰からも選ばれなかった人」を殺すという世にも恐ろしい行事でした。しかし、実際は「誰からも選ばれなかった人」は存在せず、皆平和に暮らしていることから“投票祭”と呼ばれるようになったと男は言うのです。

ネタバレ御免! 『認めている国』のゾッとする結末とは?

その国には、本当に「誰からも選ばれなかった人」などいないのか? ──残念ながら、答えはノーでした。国は、誰からも選ばれなかった人・通称アノニマを国民に知られないよう、医師に依頼してこっそりと殺していたのです。

その真相を知ったとき、キノは見知らぬ医師と共にある人物の墓の前にいました。医師は、「自分が薬物を注射してその人物を殺した」とキノに語ります。そして、その墓に眠る人物こそ、キノに“投票祭”のことを教えてくれたホテルのオーナーでした。オーナーは、酒癖の悪さと横暴さで国中の人々から煙たがられていたのです。

果たしてこの国が“認めている”のは、人の優しさや思いやりのことなのでしょうか。それとも……。


3.“はらわたマニア”に訪れた悲惨な最後──『生きている腸』

生きている腸
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【あらすじ】
風変わりな医学生の吹矢は、大学医科に7年も在学している。彼は長い在学期間、ひたすら腸のことばかりを考えていた。ある夜、彼は刑務病院の外科長を強請り、死刑囚から切除したばかりだという「生きている腸」をもらい受ける。

『生きている腸』は、日本のSFの始祖のひとりとも言われる作家・海野十三うんのじゅうざによる短編ホラー小説です。

主人公は、“腸”に夢中になっている風変わりな医学生の吹矢。彼はある晩、刑務病院の外科長の弱みを握り、死刑囚のものだという「生きている腸」をもらい受けます。吹矢はその腸をネタに世間を驚かせるような論文を書こうと、観察日記をつけ始めるのです。

腸の入っていたリンゲル液を徐々に薄めていき、やがてその中身を水に替えることに成功した吹矢。水はガスとなり、やがて空気に変わります。吹矢は、大気中で腸を生存させるという大いなる実験に成功したのです。
彼は腸に“チコ”という名前をつけ、砂糖水を与えて可愛がり始めます。知能を持ち始めたチコは、吹矢を慕うようになるのでした。

冬のある晩、吹矢はチコに与える食事を調達するため、久しぶりに外出します。彼は刑務病院で自分が大いなる実験に成功したことを話し、

「時にあれは、なんという囚人の腸なんだ。教えたまえ」

と外科長に尋ねますが、外科長はそれを教えてはくれません。

その帰り道、彼は久しぶりに街に出た楽しさからつい家に帰ることを忘れ、何日もの間遊び歩いてしまいます……。

ネタバレ御免! 『生きている腸』のゾッとする結末とは?

吹矢が8日ぶりに帰宅すると、なぜかまだチコの砂糖水は半分も残っていました。そればかりでなく、部屋に女の体臭がするような気がします。戸惑う吹矢の首元に、突如ステッキ状のものが奇妙な声をあげて飛びかかりました。そして、それは彼の首を締め上げ、殺してしまいます

実は、その腸は死刑囚のものではなく、刑務病院の若い交換手の女性のものでした。外科長は彼女の盲腸の手術に失敗したことを隠すため、その腸を取り出して吹矢に譲り渡していたのです。
腸は、吹矢のことを一途に愛していました。彼に飛びかかったときも、主人が帰宅したことが嬉しくなり、抱きついたつもりだったのです。
吹矢の悲惨な死は誰にも知られず、ただ外科長がひっそりとそれを喜ぶのみでした……。


4.多感な少女と、昔話の因縁──『魚服記ぎょふくき

魚服記
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【あらすじ】
山の中の炭焼き小屋に住む娘・スワ。彼女は、父から聞いた馬禿山まはげやまの滝にまつわる昔話を信じ、大人へと成長していく。

『魚服記』は、太宰治の最初の創作集『晩年』に収められた短編小説です。この物語の舞台は、太宰の生まれ故郷である青森県・津軽。『魚服記』では、津軽の山奥の小屋で暮らす多感な少女・スワの生活が描かれます。

スワはある日、父から聞かされた、家のそばにある滝にまつわる昔話のことを思い出します。その話は、こんな内容でした。

三郎と八郎というきこりの兄弟があって、弟の八郎が或る日、谷川でやまべというさかなを取って家へ持って来たが、兄の三郎がまだ山からかえらぬうちに、其のさかなをまず一匹焼いてたべた。食ってみるとおいしかった。二匹三匹とたべてもやめられないで、とうとうみんな食ってしまった。

そうするとのどが乾いて乾いてたまらなくなった。井戸の水をすっかりのんで了って、村はずれの川端へ走って行って、又水をのんだ。のんでるうちに、体中へぶつぶつと鱗が吹き出た。三郎があとからかけつけた時には、八郎はおそろしい大蛇になって川を泳いでいた。

父が炭を村に売りに行くようになり、家を空けることが多くなった冬、スワはひとり炉端で寝てしまいます。すると、酒臭い匂いとともに、誰かが家に入ってくる気配がして……。

ネタバレ御免! 『魚服記』のゾッとする結末とは?

スワは、目を覚ますと、体にしびれるような痛みを感じました。彼女はそのまま外へ走っていって、「おど!」(お父)と低く叫び、滝に飛び込んでしまいます。物語は、以下のような彼女の独白で終わります。

ははあ水の底だな、とわかると、やたらむしょうにすっきりした。さっぱりした。
ふと、両脚をのばしたら、すすと前へ音もなく進んだ。鼻がしらがあやうく岸の岩角へぶっつかろうとした。
大蛇!
大蛇になってしまったのだと思った。うれしいな、もう小屋へ帰れないのだ、とひとりごとを言って口ひげを大きくうごかした。

滝の中でひとり、“大蛇”になったと感じるスワ。さまざまな解釈がある作品ではありますが、スワは滝に飛び込む直前、酔った父親に虐待を受けたと考えられます。
滝に飛び込むことで、「うれしいな、もう小屋へ帰れないのだ」と感じるスワの心境には、恐ろしさだけでなく、強い痛ましさを感じます。


5.世にも恐ろしい怪談「牛の首」の真相とは? ──『牛の首』

牛の首
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【あらすじ】
怪談好きの「私」は、「牛の首」という恐ろしい怪談がある、という話を聞きつけ、その内容を教えてもらおうとあちこち尋ねてまわる。しかし、誰もが異口同音に「あんな恐ろしい話はきいたことがない」と言うばかりで、内容を話してくれない。

『牛の首』は、小松左京によるショートショートです。この話は古くから代表的な都市伝説として語り継がれており、小松自身もそんな“噂話”をもとにこの話を執筆した、と言われています。

「こわい話をずいぶん聞いたけど、一番すごいのは『牛の首』の話だな」
「あれは本当にすごい。それに後味が悪い」

物語は、S氏とT氏というふたりの友人が「私」に対し、『牛の首』という怪談があると持ちかけるところから始まります。
『牛の首』を知らない「私」がふたりにその内容を教えてくれと頼み込みますが、彼らは「思い出すのも嫌だ」、「この話を人にすると悪いことが起こり、聞いた者も3日とたたずに死んでしまう」などと強く拒絶します。

「私」はさまざまな人物に『牛の首』を知っているかと聞いてまわりますが、ほとんど全員が「知っているが、話したくない」と答えるのです。躍起になった「私」はやがてその話の正体を探ることに心血を注ぐようになり、ある日ついに、その話を知っているというミステリー小説の大家・O先生の家に押しかけますが……。

ネタバレ御免! 『牛の首』のゾッとする結末とは?

「私」に『牛の首』のことを聞かれたO先生は、恐怖の表情を浮かべて「明日の午後来たまえ」と言います。そして「私」が翌日訪れると、O先生はすでに外国へ旅立ってしまったあとなのでした……。

結論から言うと、『牛の首』が一体どんな話なのか、「私」には分かりませんでした。『牛の首』は、その“恐ろしさ”だけが言い伝えられ、誰もその中身を知らない話だったのです。

……もしかすると、本当は『牛の首』の真相を知っている人物もいるのかもしれません。しかし、たとえ皆さんの周りにいるどなたかがこの話の中身を知っていたとしても、決してその内容が語られることはないでしょう。実態のない恐怖が増幅し、繰り返されていくさまがこの話の特徴です。


6.見知らぬ“赤帽”が、どこに行っても話しかけてくる──『妙な話』

妙な話
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【あらすじ】
旧友の村上とカフェに入った「私」は、村上の妹・千枝子がかつて神経衰弱にかかり、精神的に不安定であった頃の話を聞くことになる。その頃の千枝子は、出かけるたびに謎の“赤帽”を目にし、赤帽から出征中のはずの夫の消息を聞いていた、と言う。

短編小説の名手であった文豪・芥川龍之介は、実は幻想文学や怪奇小説も数多く手がけたことで知られています。『妙な話』は、そんな芥川による怪談を集めた傑作選、『芥川龍之介集 妖婆』中の1篇です。

ひょんなことから、旧友の村上の妹・千枝子の話を聞かされることとなった「私」。村上は、千枝子がかつて神経衰弱に陥っていたとき、妙な言動を繰り返していたと語るのです。千枝子はその頃、列車の停車場に行こうと外出するたびに、荷物係である見ず知らずの“赤帽”に話しかけられ、

「旦那様はお変りもございませんか。」
「旦那様は右の腕に、御怪我をなすっていらっしゃるそうです。」

などと、出征中の夫の消息を聞かされていたと話します。そして、家に帰ってくると決まって寝込んでしまい、「あなた、堪忍して下さい」などとうわ言を言うようになります。

夫はやがて帰国しますが、千枝子と離れて暮らしているとき、海外で自分も不思議な赤帽を目にしたのだ、と彼女に語るのでした。

ネタバレ御免! 『妙な話』のゾッとする結末とは?

村上の話をカフェで聞き終えた「私」は、彼と別れて席を立ちます。そして、独りになってから、あることに気づくのです。

私はカッフェの外へ出ると、思わず長い息を吐いた。それはちょうど三年以前、千枝子が二度までも私と、中央停車場に落ち合うべき密会の約を破った上、永久に貞淑な妻でありたいと云う、簡単な手紙をよこした訳が、今夜始めてわかったからであった。…………

千枝子がその頃、停車場で会おうとしていた相手は、他でもない「私」でした。千枝子を苦しませた“赤帽”とはもしかすると、彼女の罪悪感の現れだったのでしょうか……。


7.黄色い壁紙の向こうに、女が這い回っている──『黄色い壁紙』

黄色い壁紙
『黄色い壁紙』収録/出典:http://amzn.asia/9XrcQUK

【あらすじ】
神経衰弱に陥り、医師である夫の薦めで夏の間、古い邸宅に住むことになった「わたし」。「わたし」は治療のため、働くことを禁じられ、よく運動することを勧められていた。「わたし」はやがて刺激のない生活に飽き始め、部屋の壁紙の色と模様に執着するようになる。

『黄色い壁紙』は、アメリカの作家、シャーロット・パーキンス・ギルマンによる短編小説です。神経衰弱の治療のため、ひと夏の間、古い邸宅に住むこととなった主人公の「わたし」は、自分の精神状態を毎日ひっそりと日記につけるようになります。「わたし」は風通しのよい子ども部屋で暮らしていますが、すぐに、その部屋の“壁紙”の色が気になり始めます。

虫酸が走るような、辟易するような色だ。燻したような、いやらしい黄色は、日に灼けたために徐々に褪せて、こんなに奇妙な色になったのだろう。
ぼけているくせに、妙に毒々しいオレンジ色の箇所と、病的な硫黄色の配色。

日記を記す以外はほぼ寝たきりで暮らす「わたし」は、次第に壁紙のことばかり考えるようになり、こんな妄想に取り憑かれるのです。

夜の間、ずっと見張っていると、変わるときがあるのを、わたしはとうとう見つけたのだ。
表面の模様が、確かに動くのだ――それもそのはず、その奥にいる女が揺さぶっているのだ。
ときどき、その向こうにものすごくたくさんの女がいるような気がするが、また別のときは、たったひとりのような気もする。女は素早く這い回っていて、そのためにあたりが揺さぶられているのだ。

壁紙の向こうに“女”が無数にいて、皆その後ろを這い回っている──。「わたし」はやがて、自分もその“女”たちのひとりである、と考えるようになります。

ネタバレ御免! 『黄色い壁紙』のゾッとする結末とは?

ある日、医師である夫が、引きこもるようになった「わたし」の部屋の中に入ろうとすると、鍵が閉まっています。部屋に夫を入れようとしない「わたし」の声を振り切って彼がドアを開けると、「わたし」は床を這い回っていました

「とうとうわたし、出てきたの。あなたやジェーンがいたけどね。それに壁紙はほとんど剥ぎ取ったわ。だからもうわたしをなかに戻すことなんてできないのよ!」

どうしてこの男は気を失ったりするのだろう? だけど、男はちょうど壁ぎわの、わたしの通り道をふさぐように倒れた。だからわたしはそこへくるたびに、這いながら男を乗り越えていかなければならなかった!

こんな終わり方を迎える『黄色い壁紙』は、今日ではフェミニズム的な観点から読まれることも多い作品です。主人公を(妄想の中で)壁の中に押し込めてしまったのは、彼女を監視し、自分の支配下に置こうとした夫本人であったとも捉えることができます。

この結末は、「わたし」にとって幸福なものだったのでしょうか。それともやはり、自分を犠牲にして狂気に陥ってしまった、と捉えるべきなのでしょうか。その解釈は、あくまで読み手に委ねられています。


8.なぜ“取的”は追いかけてくるのか?──『走る取的』

走る取的
出典:http://amzn.asia/172s2J9

【あらすじ】
学生時代の友人である2人のサラリーマンが、馴染みのバーで飲んでいる。2人は、会話をしているうちにカウンターに座る力士に睨まれ、何気なく彼の悪口を言ってしまい……。

『走る取的』は、筒井康隆による短編集、『懲戒の部屋』の中の1篇です。ナンセンスなブラックユーモアの効いたホラーを書かせたら右に出るものはいない作家・筒井康隆。本作にも、じわじと忍び寄ってくる理不尽な恐ろしさが詰まっています。

ある晩、2人のサラリーマンが馴染みのバーで飲んでいると、カウンター席に力士が座っているのが見えます。酒が入り、軽口を叩き始める2人。すると力士は、彼らのことをじっと睨むのです。

何が力士の機嫌を損ねたのか、2人にはまったく分かりません。「あいつは取的(下級力士)だから大したことはない」と彼らがたかをくくっていると、その取的は突如、2人を追い回し始めます。裏路地に逃げても、他のバーに逃げても、取的はひたすら無言で彼らのあとをつけてきます……。

ネタバレ御免! 『走る取的』のゾッとする結末とは?

やがてサラリーマンのひとりは郊外の駅のトイレで取的に捕まってしまい、無惨にも体の骨を折られて死に至ります。彼は最後、こう独白するのです。

どことも知れぬ郊外の駅の便所の中で取的に殺されることを、生まれて以来ずっと予感していたような気になった。

何が取的をそこまで怒らせたのか、最後まで分からぬまま物語は終わります。彼らがいくら謝っても言葉をかけても反応せず、ただ“追いかけてくる”取的の恐ろしさは、言葉にできないほどの後味の悪さを残します。


おわりに

今回セレクトした8篇のお話はどれも、霊や不可解な現象ではなく、“人間”が恐怖の鍵となる物語です。意外なオチに驚かされるものもあれば、あとからじわじわと恐ろしさが沁みてくるようなものもあったのではないでしょうか。

どの作品も“結末”を中心にダイジェストでご紹介しましたが、原作を通して読んでみれば、その恐怖をより強く味わえると思います。我慢できないほど暑い夏の日の夜、ぜひこれらの素晴らしい“ゾッとする”作品に、手を伸ばしてみてください。

初出:P+D MAGAZINE(2018/08/02)

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