採れたて本!【評論#01】

採れたて本!【評論】

 何にせよ、大ブームになるとあっという間に消費され尽くして商品寿命が縮みがちな昨今、寸止め的に絶妙な盛り上がり感を長期にわたり維持しているジャンルに、実話怪談や都市伝説がある。これを文芸に含めるかどうかには議論の余地があるが、商品化する際に「語り手」の文芸的な創作力が必須なのは確かだ。

 実話怪談のトップランナーの一人で私も愛読している吉田悠軌氏が『現代怪談考』なる書物を出した。見かけは怪談の構造分析本で、アマゾンレビューでも全体的に好評だが「考察の進め方が牽強付会すぎる」という指摘も有。アマゾン裏読みの秘術からみて、これはむしろ絶対にオモシロ本だろう! と逆説的に感じて読んでみたところ、分析本という以上に南米文学にしばしば見られる熱い邪論考察語り文芸として極めて秀逸、という感触を得た。ゆえに本稿で紹介するのだ。

 吉田氏は怪談の心理的核心に「子殺し」のモチーフがあるという大前提を立てる。この強引さがツッコミどころだが、続いて展開するサブカル民俗学というか博物学的な考察が面白すぎるので良しとしたい。要するに「母性」に過負荷が掛かると色々マズい、それは江戸時代でも電脳満開な現代でも! ということを、博覧強記、ありとあらゆる思考材料を用いて立証せんとする超絶技巧ぶりがキモだ。さらに「ほんとうに人口に膾炙するキャラター生成とは」的な、社会現象的な事実を踏まえた創作お役立ちっぽい内容も含んでいて実に飽きさせない。また、脇道的に考察される「歩く死体」系の山岳怪談の変容とルーツについて、起源は米国人作家の一九四二年の作品と判明するが、なんとその初邦訳が出る以前、武闘派作家として名高い真樹日佐夫氏が全く同じオチの(しかも舞台が古代ローマ! という)作品を発表していた。この現象について「なにしろあの真樹日佐夫なので英語原典を読めたとは考えづらく、それよりは霊的・オカルト的な形で物語の核心をゲットしたとみるほうが蓋然性が高い!」と、梶原一騎兄弟存命のころだったら極真系の猛者に家を囲まれてもおかしくないことを堂々と断言しているのが強い。強すぎるぞ吉田悠軌!

 この面白さ、深夜枠のアングラコンテンツが下手にゴールデンタイム進出とかせず未明の暗がりで脈打ち、輝いていた頃の感触に近い。子殺し云々のテーマ性にしても、そのビミョーさと絶品さを「わかる」人の間で堪能すべきものだろう。  本書、大槻ケンヂ氏が喜びそうだなぁ、と思っていたら、実際にツイッターで「歩く死体」のくだりを絶賛していたので、やっぱり! と超納得してしまった次第。

現代怪談考

『現代怪談考』
吉田悠軌
晶文社

〈「STORY BOX」2022年5月号掲載〉

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