採れたて本!【デビュー】

採れたて本!【デビュー】

 2003年に創刊された東京創元社の《ミステリ・フロンティア》は、新鋭を中心とする国産ミステリ専門叢書。梓崎優『叫びと祈り』、深緑野分『オーブランの少女』はじめ、新人のデビュー単行本をたくさん刊行しているのが特徴。最近だと、榊林銘『あと十五秒で死ぬ』や、笛吹太郎『コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎』、明神しじま『あれは子どものための歌』などの例がある。

 床品美帆『431秒後の殺人 京都辻占探偵六角』もそのひとつ。2018年の第15回ミステリーズ!新人賞最終候補作「ROKKAKU」を改題・改稿した表題作に書き下ろしの4編を加え、連作短編集として《ミステリ・フロンティア》から単行本化された。

 副題のとおり、舞台は京都。探偵役の六角聡明は失せ物探しがよく当たると評判の占い師──じゃなくて、代々つづく六角法衣店を継いだ若き店主。一方、物語の主人公──というかワトソン役は、26歳の駆け出しカメラマン、安見直行。

「第一話 431秒後の殺人」は、カメラの楽しさを教えてくれた恩人である松原の死が事故として処理されたことに納得できない直行が、祖母のアドバイスにしたがって六角法衣店の門を叩くところから始まる。松原の死因は、中京区の烏丸六角交差点付近を歩いていたとき、角に立つビルの屋上から落ちてきたコンクリートブロックに頭を直撃されたこと。松原は離婚話で揉めている最中で、死の直前にも路上で妻と押し問答していた。その妻は、夫の死により、多額の保険金など、大きな利益を得ることになる。

 妻の仕業だと確信する直行だが、松原が死亡したのは、彼女が夫と別れてタクシーに乗り込んだあとだった。現場との間には距離にして数百メートル、時間にして約7分の隔たりがある。いったいどうやって松原を殺すことができたのか?

 ……と、こういう犯行方法の謎(ハウダニット)が全5話の共通項。直行が手足となって情報を集め、それをもとに六角が鮮やかな謎解きを披露する。事件の現場は、高瀬川沿いにあるお洒落な格安ホテル、地下鉄四条駅近くの映画館、木屋町のクラブ……。土地鑑がある人なら、ああ、あのへんねと見当がつくあたりで、ご当地ミステリとしても楽しめる。最終話では、六角自身をめぐる過去の事件が浮上。全体をきれいに締めくくる。

 著者は1987年大阪府生まれ、同志社大学卒。2019年には、「二万人の目撃者」で第16回ミステリーズ!新人賞を受賞。そちらも単行本化に向けて鋭意作業中らしい。

431秒後の殺人 京都辻占探偵六角

『431秒後の殺人 京都辻占探偵六角』
床品美帆
東京創元社

〈「STORY BOX」2022年7月号掲載〉

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