採れたて本!【海外ミステリ】

採れたて本!【海外ミステリ】

 きみの言葉で聞かせてほしい。ゆっくりで構わないから。謎、推理、冒険。その全てが詰まったロンドンでの日々を。きみの言葉で語ってほしい。

 そう呼びかけてページを開けば、十二歳の少年、テッドはユーモラスに語り始める。シヴォーン・ダウド『ロンドン・アイの謎』(東京創元社)は、子供の視線から見た瑞々しい景色と、家族についての悩みを巡るYA(ヤングアダルト)ミステリーである。

 本書冒頭のロビン・スティーヴンスの序文には、「児童向けのミステリは現在、華やかな黄金時代にあります」と書かれているが、日本でも、フランシス・ハーディングやホリー・ジャクソンといった作家のYA作品が続々と紹介され、その「黄金時代」ぶりが伝わってきたように思う。『ロンドン・アイの謎』は小学生・中学生が初めて読む翻訳ミステリーとしてうってつけだし、そして大人も、読まないのは勿体ないほどの傑作だ。

 テッドのいとこ、サリムは、観覧車「ロンドン・アイ」に乗りこむが、三十分してカプセルが地上に着いた時、サリムの姿は忽然と消えていた。誘拐も疑われるため、家族は憔悴していく。また、作中では巧妙にその言葉を避けるのだが、テッドはアスペルガー症候群を抱えていて、人の感情を読むのが苦手であり、家族とも度々摩擦を起こしている。

 しかし、テッドの語り口はユーモラスで、このあらすじから想像されるほど重苦しい話にはならない。たとえばテッドとサリムの一幕を描いた冒頭近くの5章「夜のおしゃべり」の会話は素晴らしい。テッドは天気の仕組みに強い興味があり、天気を会話の糸口としての「軽い話題」だと考えている友人とは話が合わない。そんなテッドの言葉を、サリムは飄々と受け止めながら、子供の世界の「さびしさ」を語る。ここが妙に沁みるのだ。

 テッドとコンビとなって事件解決に臨む姉、カットも実に愛おしいキャラクターだ。「歩く災害」と称される行動派の姉と、「人とは違う」頭の働きで事件の真相に迫っていく頭脳派の弟。彼ら二人のバディものとしても楽しめ、その会話や行動には思わず頬が緩む。

 そして、謎解きミステリーとしても実に見事だ。類型的には「人間消失」という不可能犯罪の一種であるが、テッドはこの事件に早い段階で「八つの仮説」を立てる。その仮説を基に、消去法で、透徹した論理で、真相に迫っていくのである。トリックだけ取り出せば基本形のそれかもしれないが、『ロンドン・アイの謎』はとりわけ解決編の演出と伏線の張り巡らせ方がいい。実に小気味よく、謎解きファンのツボを押さえているのだ。

ロンドン・アイの謎

『ロンドン・アイの謎』
シヴォーン・ダウド
訳/越前敏弥
東京創元社

〈「STORY BOX」2022年9月号掲載〉

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