採れたて本!【エンタメ#21】

採れたて本!【エンタメ#21】

 30歳になってみると、なんだか、自分が学生時代に想像していたよりずっとずっと「学生時代の延長」みたいなノリできているなあ、と愕然とすることがある。もっと大人になっているはずだったのに! と叫びそうになる。しかし時の流れは残酷で、ちゃんと身体は老いているし学生時代と全然違うのに、精神のほうはたいして変わっていなかったりするものだ。本書を読んだとき、おもわず「わかるなあ」と呟いてしまったのは、本書がそんな「学生時代の延長にいるアラサーの自分」を描き切ってくれたからなのかもしれない。

 物語は、大学時代に仲の良かった6人グループの1人である千鶴が、30歳の目前に結婚することになったところから始まる。しかし彼女は友人・果凛にあることを頼む。それは、自分のことをずっと好きな響貴に、「告白される」ことに協力してくれないか、という奇妙な依頼だった。響貴が何も自分に伝えないままに自分が結婚してしまっては、きっと彼はその後も自分のことを引きずってしまうだろう。だからまずは告白させて、振って、そして彼を前に進ませてあげるのだ。「私があいつの頭を撃ち抜かなきゃいけない」と語る千鶴は、奇妙な計画を決行する。謎の告白大作戦は、はたして成功するのか? そして千鶴の真意とは? ミステリでもあり、アラサーの青春物語でもあり、モラトリアムの終わりを描いた小説でもあり、さまざまな楽しみ方ができる一冊となっている。

 なんともキュンとする小説で、そこがすごく良いなと思いつつ読み終えてしまった。なぜキュンとするのかといえば、アラサーの主人公たちによる恋愛の終わりが、若さや未熟さといった自分の青年期との決別にもなっているからだ。

 学生時代の友人の特別さは、きっと自分の未熟さを知っているという点から来ているのだろう。しかし未熟さは若さの中に置いていかないと、大人になることはできない。だからこそモラトリアムという言葉があり、未熟さを許される時間とそうでない時間が分けられているのだろう。本書は、恋愛という人間関係を通して、若い時期の未熟さを人はどう受け止めるのか? という問いを描いている。

 30歳になる前に、好きだった相手を通して決別する自分の未熟さと。そんな物語がキュンとこないわけがない。ラブコメディとしてもミステリとしても一級品であるが、やっぱり私はこの小説を「モラトリアムを終わらせる話」として読みたい、と思ったのだ。

告白撃

『告白撃』
住野よる
KADOKAWA

評者=三宅香帆 

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