採れたて本!【国内ミステリ#39】

まず犯人視点で犯行の経緯を描き、それが探偵役の捜査で暴かれる過程を主眼とするのが倒叙ミステリだが、1912年に刊行されたR・オースティン・フリーマンの短篇集『歌う白骨』が元祖とされる。日本では『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』といったドラマの人気が高かったこともあり、他国よりも倒叙ミステリがかなり発展した。近年では、大倉崇裕・倉知淳・香納諒一・相沢沙呼・降田天らがそれぞれ個性的な探偵役を活躍させている。
日本初の女性白バイ隊員で、警察退職後に小説を書きはじめたという経歴を持つ松嶋智左の生み出した遠楓ハルカも、そんな倒叙ミステリの伝統に連なる名探偵である。シリーズ第2弾『大阪府警 遠楓ハルカの捜査日報2』には、4つのエピソードが収録されている。
遠楓ハルカは、30代半ばで大阪府警本部刑事部捜査一課の警部になり、捜査一課班長を任されたほど優秀で、類まれな美貌の持ち主。だが、容姿からは想像できない口の悪さと太々しさを持つ大阪のオバチャン気質で、遠慮することなく捜査に邁進する。部下の佐藤は彼女を尊敬しつつ、突飛さや無茶ぶりにしばしば肝を冷やすこともある。
本書でハルカと対峙する犯人の顔ぶれはというと、夫の暴言に立腹してつい殴って死なせてしまった妻(第1話「家遠し」)、ドーピングを追及してきた監督を殺害した実業団ランナー(第2話「ラストラン」)、横領を暴かれないため親友を殺めた老人(第3話「そーりゃそーりゃ」)など。過失もあれば計画殺人もあるが、同情の余地がある犯人であっても、1秒でも早く捕まえるのが刑事の仕事だと考えるハルカは、手段を選ばず犯人を追いつめてゆく。だんじりの前梃子という重要な立場を長年務めてきたコンビが犯人と被害者になる第3話は、とりわけ大阪の地方色が濃厚な傑作だ。
『刑事コロンボ』で言えば「さらば提督」、『古畑任三郎』で言えば「今、甦る死」のような、通常のパターンを崩した異色エピソードにあたるのが、本書の第4話「多景島」である。この作品では、ついにハルカと佐藤が管轄の大阪を出て滋賀で活躍する。佐藤が拾った他人のスマホに殺人計画らしき文面があったため、二人が観光船の乗客に紛れ込んだ犯人を追うという展開だが、スマホの持ち主は読者には最初から明かされているから倒叙であり、他の共犯者は伏せられているのでフーダニットでもある……という趣向なのだ。正統派エピソードも良し、異色エピソードも良しの、まだまだ続いてほしいシリーズである。
評者=千街晶之






