採れたて本!【海外ミステリ#46】

採れたて本!【海外ミステリ#46】

 本連載では基本的にフィクションの海外ミステリを紹介しているが、今回は、ミステリ的興趣が強いノンフィクション作品を紹介させてもらいたい。エドワード・ドルニック『恐竜発見 巨大な骨の化石の謎に挑んだ人々の物語』は、今でこそ「常識」の一つになっている「恐竜」という巨大な物語が、いかに生まれ、見出され、疑念を呼び、受容されていったのかを辿る一大スペクタクルドラマだ。そもそも太古の昔に滅びてしまった存在である恐竜を、なぜわずかに残された骨からイメージできたのか。そこにはこの壮大な物語を「発見」した人々の、熱く胸躍るドラマがある。

 本書を海外ミステリ好きにおすすめするのは決して的外れではない。本書に登場する賢人ジョルジュ・キュヴィエは1796年のパリで骨から見事な推理を組み立ててみせる。この章(30章)のタイトルはなんと「シャーロック・ホームズ、一本の骨を前に熟考する。」である。

 キュヴィエの見事な推理力はみるみる世間に広まっていき、コナン・ドイルはシャーロック・ホームズの物語のなかで、ホームズがキュヴィエを褒める場面を書いている。優れた探偵が、ひとつの手がかりを元に事件の全体像を見抜くように、「キュヴィエがたった一本の骨を観察するだけで、その動物の全体像を正しく言いあらわすことができたように」と、ホームズはいう。

 引用内のホームズのセリフは短編「五つのオレンジの種」(『シャーロック・ホームズの冒険』所収)のものである。過去に追いかけられるというテーマの物語であり、ホームズの知識について再整理がなされる短編に、ポンッと登場するキュヴィエの名前に光が当てられるのが面白い。エドワード・ドルニックの筆は自在に世界中を飛び回り、例えば科学の探求心と、その反面にある聖書というイメージの枷について軽やかに語る。キュヴィエの功績を語るのにホームズを引用してみせるのも、知識領域の重なりを軽やかに切り取る心憎い演出だ。彼がこうして織り上げる歴史と知識のタペストリーに、スッと一本、緋色の糸が混じる。探偵小説好きにとっては、これだけで嬉しいではないか。もちろん、名しか知らなかったキュヴィエの名推理を味わうのも、無性に楽しい。

 とはいえ、本書を読んでキュヴィエよりも深い印象を残すのは、むしろメアリー・アニングの方かもしれない。家業である化石発掘のなかで、1823年に初めて首長竜の全身骨格の化石を発見し、全体像を想像したスケッチを描いた女性である。紛れもない功労者であるにもかかわらず、苦労と金銭的苦境、鬱屈を抱え、それでも折れずに生きていく一人の女性の姿が、力強く胸に刻まれた。

 エドワード・ドルニックは『ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日』(光文社)でアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)を受賞している。同賞には長編部門や短編部門など数多くの部門があるが、ドルニックは Best Fact Crime(犯罪実話部門)での受賞だ。他にもロゼッタストーンの謎に挑んだ二人の天才を描く『ヒエログリフを解け──ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』(東京創元社)があり、いずれもミステリ的興趣と知的興奮に溢れたノンフィクション揃いだ。ドルニック、ハズレなし。

恐竜発見 巨大な骨の化石の謎に挑んだ人々の物語
『恐竜発見 巨大な骨の化石の謎に挑んだ人々の物語』

エドワード・ドルニック 訳/杉田七重
東京創元社

評者=阿津川辰海 

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