【旅に行けない今こそ読みたい】旅の楽しさやドラマが楽しめるおすすめの本

いざ旅に出ようと思っても、さまざまな理由でそれが叶わない場合もあるでしょう。そんなときは旅にまつわる本を読んでみませんか? 旅の情景と一体化し、現地へと降り立ったような気持ちになれるかもしれません。今回は、読むだけで旅の絶景や旅にまつわる歴史、旅の裏側にあるちょっと恐ろしいエピソードなども楽しめる7冊をご紹介します。気持ちだけでも「あなたの旅」をスタートさせましょう。

『日本名城紀行シリーズ』著/森敦、藤沢周平、円地文子他


https://www.shogakukan.co.jp/books/09353103

【あらすじ】
1977~78年に小学館より発刊された、ガイドブックよりも奥深い日本名城の物語が楽しめる、「探訪日本の城」シリーズが復刊。森敦、藤沢周平、円地文子、井上ひさし、武田八洲満、杉本苑子などの文豪たちが個性豊かに描いた青葉城や鶴ヶ丘城、高遠城や浜松城、名古屋城などの名城の記録。それぞれの名城の歴史だけでなく、名城とともに生きた人々の栄枯盛衰などの物語も知ることができます。どのシリーズも名城の美しさや歴史だけでなく、天下に潜む人間たちの憎悪や執念、女たちの愛憎劇などが生々しく描かれていて、大河ドラマのような面白さを味わえます。

戦いに勝敗、明暗があるように、城にも日の光を浴びた明るいものがあるかと思うと、日陰のじめじめしたところにうずくまって傷手をこらえているうちに、野たれ死にして、人に忘れられてしまったような城がある。名古屋城・姫路城・熊本城など、名城といわれるものの多くは、明るい運命のもとにうまれた城である。

落城することもなく、長期にわたって栄華を誇れる名城も稀にあるようですが、そのほとんどが悲惨な運命を辿るそうです。世の中には「栄枯盛衰」という言葉がありますよね。その意味のごとく「人も名城も、栄えたり衰えたりを繰り返すほど、人の世のはかない」、そんなメッセージにも感じ取れるのではないでしょうか。名城を命がけで守る武士の大変さや勝利の裏側にある苦しみ、人生の儚さなどを理解したうえで名城巡りをすることで、また一味違った景観を楽しめるかもしれません。

 

『旅ドロップ』著/江國香織


https://www.shogakukan.co.jp/books/09388699

【あらすじ】
「旅にでるとき、私はいつも、ちっぽけな子供に戻ってしまう気がする」と告白する、著者の江國香織氏。本書は、2016年から2019年にかけてJR九州の車内誌「Please プリーズ」に36回連載されたエッセーに、同じく「旅」をテーマにして書かれた長めのエッセー、さらに詩を3篇収録したもの。行き先も決めずに、自由で小さな旅のロマンをたくさん凝縮させた1冊。

夜の新幹線はさびしい。一人で乗っているからさびしい。窓に社内が映るからさびしい。みんな疲れて寝ているのもさびしい。物売りのワゴンが遠慮がちに通るのもさびしい。ちゃんと仕事をしてちゃんと切符の手配もしてちゃんとお弁当も買ってちゃんとビールだって買って充実した人生なんです。ケッコウ忙しくてエエ、旅は好き

「さびしい」といえば、マイナスの印象に捉える人は多いかもしれません。みんなで和気あいあいと旅行するのも旅の楽しさのひとつかもしれませんが、ひとりで景色を眺めながら新しい“何かに気づく”ということも、自己成長の一つではないでしょうか。ひとりだからこそ、普段は気にもかけないようなことにも気づくことができて自身の人生について考えるキッカケにもなる瞬間があるのかもしれません。

 

『旅の終わり、始まりの旅』著/井上荒野 著/島本理生 著/西 加奈子 著/嶽本野ばら 著/夏川草介


https://www.shogakukan.co.jp/books/09408705

【あらすじ】
5人の人気作家による北の果ての恋物語を描いたロマンティックな旅のアンソロジー。5人5通りの出会いや別れなどを描いた本書は、「旅は何かの終わりでもあるし、そして、何かの始まりでもある」という意味深さを教えてくれる1冊です。

堀田に体を揺さぶられ、目を覚ますと、一時間前と変わらい景色の中にいた。ただ、小さな駅についたようだ。白い看板、蟹田と書いてある。人は見えない。(中略)堀田のリュックの中には『津軽』という太宰治の小説が入っている。(中略)「この小説を読みながら移動するんや。」堀田の目は、キラキラと光っていた。

旅に出るとき、最初から行先を決めておくのもよいでしょう。しかし、旅には出たいけど、なんとなく目的地が思い浮かばないときは、お気に入りの小説のメッカをまわってみるのも名案ですよね。小説には、太宰治の小説である「津軽」を舞台に、主人公たちが太宰の生家などを巡っていく様子が描かれています。旅好きだけでなく太宰治ファンにもたまらない旅の紀行が本書にて満喫できるに違いありません。

 

『詩城の旅びと』著/松本清張


https://www.shogakukan.co.jp/books/09352232

【あらすじ】
松本清張が南仏を舞台に愛と復讐の交錯を描いた小説。NHK同名ドラマの原作にもなった本書は、「ゴッホゆかりのプロヴァンス地方で国際駅伝を」といった女性の投書に興味を持った和栄新聞社企画部長の木村を主人公に、ゴッホが愛した美しい光景の中に潜んだ憎悪や愛、執念や殺意などが描かれています。ストーリー以外にも南フランスの太陽や空、あふれるラベンダーの紫、ゴッホのゆかりの地であるアルルの情景などを堪能できる1冊。

マルセイユ=アルル間の南寄りの街道は地中海に沿っています。ここから東へ行くと、カンヌ、ニース、モナコとなって、いわゆるコート・ダジュール、リビエラとつづきます。アルルの南、ローヌ川の河口に当たるカマルグの湿地帯では、案内書によると、フラミンゴが飛び、白い馬が走り、野牛が群れているそうです。(中略)陽光が降り注ぐこの地を、フランス人は「太陽の国」として憧れているということです。

独特な文化や美しい自然に織りなされたフランスに憧れを抱く日本人女性は多いでしょう。小説の物語を読んでいると、世界的にも有名な南プロヴァンスの中世都市レ・ボーやゴッホのゆかりの地などの情景が、文章から浮かび上がってくるようです。松本清張やゴッホファンだけでなく、フランス旅行に興味がある人でも読み応えある内容になっていることに間違いありません。

 

『THE TRAVEL BOOK OF MAUI HAWAII やさしいハワイ マウイ島の本』著/青木たまな


https://www.shogakukan.co.jp/books/09388419

【あらすじ】
著者の青木氏は東京で暮らす会社員であり、ハワイ渡航回数は35回以上にも及にハワイ通。そんな著者のハワイ諸島ガイドブック第2弾が登場! ページをめくるたびに「心を満たす、一歩先のハワイ」をコンセプトにした素朴でダイナミックなマウイ島の魅力を堪能できます。

日本では「ハワイ=ワイキキ オアフ島」ですが、欧米ではマウイ島が全米No.1リゾートして人気。特筆すべきは自然です。聖なる山ハレアカラのサンライズ、ハワイ王族の聖地ハナなど海、山、緑が豊かで(渓谷の島)または(魔法のような島)と呼ばれています。

マウイ島といえば、全米でもトップリゾート地で、オーガニックファームの高原エリアとしても知られていますよね。他にもサーファーやアーティスト達が賑わう町としても有名で、エリアごとにさまざまな表情を持っていることが特徴です。マウイの自然を堪能するためには、朝の6時半から7時くらいに起床して、ホテル前のビーチを散歩したり、お昼前にノンアルのピナコラーダをオーダーするのがマウイ流なのだとか。プールサイドでお気に入りの本を読んだり、スパを受けるなどして、マウイ島ならではの充実した過ごし方を知るのも良いですよね。まるで、自分がハワイ休暇を満喫しているような気分になり、ストレスが吹き飛んでしまうかもしれません。

 

『わたくしが旅から学んだこと』著/兼高かおる


https://www.shogakukan.co.jp/books/09408806

【あらすじ】
著者の兼高かおる氏(2019年に死去)は、31年続いた長寿番組『兼高かおる世界の旅』において、レポーターやディレクター、プロデューサーなど何役もつとめました。取材した国は約150か国以上にものぼります。地球は軽く180周はしたという旅のプロフェショナルが描く本書は、多くのメディアでも取り上げられて、大反響となりました。

人には誰しも一度や二度、大きな運がある。小さな運は何度もあるでしょうが、大転機を迎えるような運は二度。(中略)運のいい人は、それを取り逃さずに、いい波が来たときに上手に乗る。一方、波に乗り損ねて悪い方へ悪い方へと行ってしまう人も見てきました。人柄のよしあしに関係なく、なぜかチャンスを逃してしまう。お気の毒ですが、はたからはどうすることもできないのです。それもまた運なのですから。

戦争が終わってすぐにアメリカに渡り、やりたいことをすべてやり尽した著者だからこそ言える、説得力あるフレーズですよね。兼高氏の人生観は、「最初の3分の1は、あとで世の中の役に立つようなことを習う。次の3分の1は、世のため、人のために尽くす。残りの3分の1は、自分で好きなように使う」のだそうです。きっちり3分割である必要はなく、この1つが欠けるだけでも、人は幸せにはなれないと説いています。本書を通じて、「人生の3分の1の時間を、あなたの旅に割いても悪くはない」、そんな思考になれるのではないでしょうか。

 

『絶景の空旅』 文・写真/チャーリィ古庄 文・構成/星 裕水


https://www.shogakukan.co.jp/books/09388537

【あらすじ】
著者であるチャーリィ古庄氏は、旅客機専門の航空写真家。これまでに、100以上もの国や地域を訪れていて、世界でも最も多くの航空会社に搭乗した「ギネス世界記録」保持者です。そんな凄いキャリアの航空写真家が、厳選かつ絶景の空旅をピックアップして、空の旅へといざなってくれる1冊。

青い海、白い砂浜、そんな南国の絶景にたたずむシーブレーン。そんな絵が撮りたくて、長年モルディブへの撮影紀行を計画していた。珊瑚からなるモルディブには約1200もの島があり、リゾートの島、刑務所とその他施設がある島、空港の島、ごみの島など一つの島で一つの目的を果たしている島がほとんど。

モルディブといえば絶景のロケーションを誇る観光地、という印象ではないでしょうか。まさかそこに1200もの島が存在し、リゾート島だけでなく刑務所やごみの島なども存在するとは驚愕ですよね。しかし、そんな意外な一面も含めた未知さが、旅好きの好奇心をより刺激する理由にもなりそうです。ギネスに掲載された旅の達人である著者ならではの旅の楽しみ方、そして美しい絶景を「写真」と「文章」の両方で満喫することができるでしょう。

 

おわりに

美しくも儚い歴史を持った日本名城の記録や、太宰治の小説に出てくるメッカ巡り、松本清張が描く南プロヴァンスの情景や自然豊かなマウイ島の魅力など今回紹介した7冊を通じて、旅の情景だけでなく、旅することの意味や人生観にも触れることできそうですよね。旅とは、単に日頃のストレスから逃れてリフレッシュすることだけが目的ではなく、旅を通じて自己成長したり、大事なことを再発見するための修行なのかもしれません。

初出:P+D MAGAZINE(2020/04/04)

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