◉話題作、読んで観る?◉ 第49回「死刑にいたる病」
5月6日(金)より全国公開
映画オフィシャルサイト
日本ホラー小説大賞読者賞を受賞した『ホーンテッド・キャンパス』で知られる櫛木理宇による、長編小説『死刑にいたる病』の映画化。『孤狼の血』で鮮烈なバイオレンス描写を見せた白石和彌監督が、死刑が確定している連続殺人犯と彼に魅了された若者との危険な関係をスリリングに描いている。
中学までは優等生だった雅也(岡田健史)だが、今は三流大学の法学部生だった。無為なキャンパスライフを送る雅也のもとに、意外な人物からの手紙が届く。送り主は雅也が少年期に通っていたパン屋の店主・榛村(阿部サダヲ)だった。雅也が地元を離れた後、榛村は連続殺人犯として刑務所に収容されていた。
24件もの殺人容疑で逮捕された榛村は、面会に訪れた雅也に「最後の一件だけは冤罪だ」と訴える。事件を調べ始めた雅也は、榛村の複雑な生い立ちを知り、彼の冤罪を晴らすことに生きがいを見出すようになっていく。
白石監督のブレイク作となった実録犯罪映画『凶悪』と同じく、主人公は刑務所の面会室で殺人鬼と度々対話する。ヒットメーカーとしての実績を積んだ白石監督は、単調になりがちな面会室シーンを、より柔軟な演出で目の離せない見せ場へと変えてみせた。
裁判資料を読み、関係者を訪ね歩くうちに、社会からの疎外感を感じていた雅也は榛村に感情移入するようになる。2人の心の距離も次第に近づき、面会室を仕切っているはずのアクリル板が映画後半では消滅してしまう。
愛情と憎しみは紙一重であるように、性衝動と暴力衝動の境界も非常に曖昧だ。犯罪者と非犯罪者とを隔てているボーダーが、とても危ういものに感じられる。
原作は雅也が社会の闇に触れながらも、大人へと成長していく青春小説としての清涼感を感じさせたが、白石監督はPG12以上に強烈な印象を与えるゴア描写も含め、生きることの「痛み」を強く感じさせる生々しい犯罪ドラマに仕上げている。
美形のシリアルキラーとして原作では設定されていた榛村は、親近感のある俳優・阿部サダヲが猟奇シーンも平然と演じ、さらに不気味な存在となった。同じ物語でありながら、小説と映画では後味が大きく異なる。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2022年5月号掲載〉