◎編集者コラム◎ 『燃えよ、あんず』藤谷 治

◎編集者コラム◎

『燃えよ、あんず』藤谷 治


燃えよ、あんずの書影とオビ

 このお話は、著者がかつて下北沢に開いていた本屋さん・フィクショネスを舞台にした、店主や常連客たちが巻き起こす悲喜こもごもの人間ドラマです。
 実際に登場人物とまんま同じひとは、そこは小説なので存在しないようですが、かなりイメージに近い人なんかもいると聞いています。

 ちなみに、私は仕事場を兼ねていたそのお店に何度もお邪魔したことがありますが、ほとんどお客さんを見たこともなく、失礼ながら、経営は大丈夫なんだろうか……とよく思っていたこと。それから、お店の入口の自動ドアに、たしか赤マジックで大きく「大吉」と書かれていて、これも初見のお客さんが見たら引いてそのまま帰ってしまわないだろうか、といらぬモヤモヤを抱いていたこと。だいたいこのふたつの印象しかなかったので、こんな大長編になるようなあれやこれが、よくぞこのお店を磁場に生まれたものだなあ、と原稿を読んだ時は思ったものでした。

 さて、そんな私の要らぬ感慨はどうでもよくて、本作のカバーイラスト、帯の手書き文字、さらに解説まで書いてくださった TSUTAYA中万々店の書店員・山中由貴さんのことをすこし書かせていただきます。
 約4年前に本作の単行本が出たのですが、その際、事前に配布した試読本を読んだときの山中さんの感想に度肝を抜かれたことを今も覚えています。そこには、「今年いちばんどころではない、人生でも一、二を争うくらいの本に出合ってしまった」と書いてありました。それまで20年近く本の編集をしていましたが、これほど実直で、強く、簡潔な感想の言葉を目にしたことはありませんでした。

 さっそくこの言葉を単行本時の帯に使用させていただいたのですが、山中さんは、自身でも、この本をひとりでも多くの読者に伝えたい、とある種凄みすら感じさせられる店頭展開はもちろん、 Twitter までこれをきっかけに始めたと伺っています。
 そんな山中さんのある意味偏愛(ちなみにこの偏愛要素が、本を編集する際にも大切ではないかと勝手ながら思っています)といってもいい熱量を、文庫版の際、なんとか熱伝導できないだろうかと考えているうちに、気がつけば、あれもこれもお願いするかたちになってしまいました(書店業務などお忙しいなか、こちらの無理をお聞きいただき、いろいろとありがとうございました……涙。この場を借りて、御礼申し上げます)。

 すこし長いお話ですが、初読の方は、まずは帯裏の手描きの登場人物紹介を眺めてみてください。一見ぽんこつ揃いのキャラクターたちが、思いも寄らぬあれやこれやをやってのけてくれるはずです。
 どうぞよろしくお願いいたします。

──『燃えよ、あんず』担当者より

燃えよ、あんず

『燃えよ、あんず』
藤谷 治

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