◉話題作、読んで観る?◉ 第52回「TANG タング」
8月11日(木・祝)全国ロードショー
映画オフィシャルサイト
2016年のベルリン国際映画祭にて「映画化したい一冊」として紹介された、英国の作家デボラ・インストールの処女作『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の映画化。池井戸潤原作の映画『アキラとあきら』が8月26日(金)から公開される三木孝浩監督が、大人になりきれずにいる30代の男性とポンコツロボットとのおかしなロードムービーとして撮り上げている。
健(二宮和也)は以前は研修医だったが、仕事上のミスが原因で自信を失い、ニート状態を続けていた。法廷弁護士である妻の絵美(満島ひかり)からは、小言を言われる毎日だった。
そんな健夫婦の家に、薄汚れた一台のロボットが迷い込む。「タング」と自称するロボットの処分もできずにいる健に、絵美は業を煮やして離婚を宣言。仕方なく健はタングを連れ、所有者を探す旅へと向かう。
何をやってもダメな主人公と欠陥を抱えたロボットの組み合わせといえば、『ドラえもん』が思い浮かぶが、タングは主人公の窮地を救うような便利グッズを提供することはできない。主人公とロボットが利害関係では結ばれていないところが、本作の面白さとなっている。
好奇心旺盛なくせに、すぐに駄々をこねるタングは、人間の幼児そのもの。「ポンコツ」呼ばわりすると、蒸気を出して怒り出す。そんなタングの世話を焼くことで、健は次第に思いやりを身につけ、寛容性のある大人へと成長していく。
大ヒットした3Dアニメ『STAND BY ME ドラえもん』などを手掛けたVFXプロダクション「白組」による、タングの豊かな表情が楽しい。目の部分の点滅で、喜怒哀楽が細やかに表現されている。健だけでなく、タングもまた旅を通じて経験値を増やし、父親代わりとなる健の心情を少しずつ理解することに。人とロボットが共に成長していく過程が心地よい。
社会に出て、結婚しても、人はすぐには大人にはなれない。むしろ、つまずくことのほうが多いだろう。試行錯誤しながら、相手との関係性を築き、一歩ずつ成長していくしかない。その点に関しては、人間もロボットも違いはないように思う。スマートさからはかけ離れているタングだが、この小さな相棒はとても大切なことを教えてくれる。
(文/長野辰次)
〈「STORY BOX」2022年8月号掲載〉