ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第34回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第34回

こんな時だから現実逃避、はいいが、
「楽しすぎて戻って来れない」
という副作用に注意しろ。

未だに出口の見えないコロナ禍の真っただ中である。

もうコロナの話自体に辟易していると思うが、今この話題に触れないというのは、うどんを無視して香川を観光するぐらい不自然である。

私の住んでいるところは、人の密集地と言ったら火曜市のザ・ビッグぐらい、という僻地なので、感染者数自体はまだ少ない。
だが、少ないが故にもし感染などしたら、ゴールデンカムイの杉本のように、自ら家に火をつけて村を去るしかなくなりそうな怖さはある。

ともかく、まだ日常生活を送らせてもらってはいるのだが、仕事の方は、雑誌が発売延期になったり、仕事自体が延期になったりと、影響が出ている。

また新刊発売イベントが中止になったのを皮切りに、新刊を出してすぐそれを売ってくれる主要書店が軒並み休業し、頼みの綱である通販も日用品優先なので、在庫が切れていてもなかなか補充されないという状態だ。

改めて状況を整理したら、特に意味もなく家に火をつけたくなってきたので、書くべきではなかった。
ただ、そういう時でも、家の中にいたまま家に火をつけるという外出自粛の精神だけは忘れずにいたいものである。

しかし、これは私だけに起こっていることではない、私だけだったら家より先に出版社を燃やしている。

つまり漫画業界全体が苦境ということである。
もしかしたら、言うと怒られが発生するから言わないだけで実は電子書籍特需で儲かっているのかもしれない。だったら私にだけでも「神妙なツラをしていますが実はウハウハです」と教えてほしい。
そうしていただければ、こちらも一瞬の躊躇なく、研ぎ澄まされた俺自身の殺意《紅蓮の弓矢》を放てて大変助かる。

もっと甚大な影響を受けている業界があるのもわかってはいるが、漫画業界も少なくとも作家は影響を受けている。

だがこんな状況だからこそ、改めて漫画を含むエンタメやフィクションの重要性を知ることができた。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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